2022年9月、私はジョージアを訪ねた。
黒海の東岸に位置し、東西をコーカサス山脈が貫いている。
日本では2015年までグルジアと呼ばれていたので、もしかしたらそちらの名前を聞けばピンとくる人もいるかもしれない。
実はジョージアは、世界最古のワインの産地と言われていたり、かつてはシルクロードの要衝として機能していたりと、とても興味深い歴史を持っている。
また近年では、世界銀行が2019年に発表した「ビジネス環境の現状2020(Doing Business 2020)」で世界7位にランクインしているほか、ノマド・ワーカーに優しい国としても熱い視線を注がれている(Doing Business in Georgia – World Bank Group)。
今回はそんな、今も昔も隠れホットな国、ジョージアで過ごした2週間を振り返り、前編と後編に分けてお送りする。
前編(この記事)
前編では、1週間と少しの間に大好きになってしまった町、トビリシでの思い出を時系列でご紹介する。
後編(次週の記事)では、2週間のジョージア滞在中に訪れた3都市——トビリシ、カヘティ、バトゥミ——の、個人的イチオシ・スポットと、ジョージアのごはん事情(旅のお約束!)をご紹介する。
はじめに
私は同じジャパ科生というご縁から、ジョージア出身外大生 ジョージ(仮名)の協力を得て、これまでもジョージアの文化について学びながら楽しく記事を書いてきた。
しかし、実際に現地を訪れるのはこれが初めて。
「本場のジョージア料理はどんな味なんだろう?」「町並みはどんな感じかな?」などなど、期待と興奮を胸に、私はエミレーツ航空の成田発ドバイ行きの便に乗り込んだ。
バックナンバー
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- インタビュー・冬のジョージアがおもしろい🇬🇪2話完結—お正月編
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トビリシ、驚きの連続の1日目
2022年9月9日(金)、現地時間の午後2時40分、晴れてトビリシ国際空港に到着した。
飛行機の着陸間際に覗いた窓の外には、想像していたよりも山がちで、建物もまばらで、薄茶色と所々緑色の風景が広がっていた。それは乾いた土と、乾燥した地帯に生える植物のくすんだ緑が織りなす色だった。
空港で外大OBのジョージと、ジョージのお父さんと合流した。初めて会うジョージのお父さんに「はじめまして」と言ってお辞儀をしてから、「あ、ここは日本じゃないんだった」と思い至る。
空港を出る際に通信会社のデータ・プランのチラシを差し出され、ジョージが「No, thank you.」と言う。「あれ、相手はジョージア人なのに英語?」私の脳内は到着早々、混乱気味だ。
後日聞いたところによると、ジョージア人同士の会話でもちょいちょい「一文まるごと英語」の発話が混ざるらしい。ジョージアの若者の英語力、恐るべし。
空港の外に出ると、晴れ渡った空にカラッとして澄んだ空気が印象的だった。そこからジョージのお父さんに運転してもらい、トビリシの中心部へ向かった。東京とは明らかに違う植生を眺めていると「本当にジョージアに来たんだ」という実感が湧いてきて無性にワクワクした。
途中でガソリンスタンドの売店に寄ると、そこには給油スペースを我が物顔で歩く1匹の野良犬が。私がジョージアで出会った最初の野良犬だった。
しばらく車を走らせると、だんだんと建物が増えて市街地に近づいてきたことを知る。しかしこの道路、日本の道路と何か違う。そう、車線が引かれていない。それなのにジョージのお父さん含め、ドライバーたちはちゃんとどこを走るべきかわかっていて、スムーズに走っている。東京の人が、渋谷のスクランブル交差点でお互いにお互いを器用に避けながら歩く術を知っているように、トビリシにはトビリシのドライバーが知っている、運転の心得があるのだと思った。
そして交差点に差し掛かると、さらに驚きの光景が。車が行き交う交差点の真ん中で、歩行者のおじさんと運転手のおじさんが挨拶を交わしている…!周り、普通に車通ってますけど…?あまりの大らかさに度肝を抜かれた。なんかいいなぁ、ジョージア。
途中川沿いの道を走っていると、白くて丸い、なんともユニークな屋根のガラス張りの建物が見えた。「あのキノコみたいな建物見える?あれはジョージアの法務省なの」とジョージが教えてくれた。
ちなみにキノコはジョージア語で სოკო(ソコ)。なので法務省の建物も「ソコ」という愛称で呼ばれているそうだ。日本人的にはつい親父ギャクをかましたくなる。
「そこ、ソコだよ〜」
しばらく走ると今度は車道を堂々と横断する通行人が。これ、jaywalk(ジェイウォーク)といって国によっては罰則の対象にもなる歩き方なのだけれど、ジョージアでは車道でも横断歩道と同じ様に渡る。もちろん、車の往来には注意した上で。
表通りから脇道に入り、滞在予定のアパートの近くまで来たところで何だか既視感を覚える光景が。
まるで映画で見たような茶色の町並みに曲がり角、そしてボードゲームに興じるおじさんたち…!
実を言うと、その付近は道もボコボコだし、お世辞にも整っているとは言えない場所だった。道の片側には砂のようなサラサラの土が山と積まれていて、ここが住宅地でありながら建設現場でもあることを物語っていた。
それでも、だ。映画の世界が、今この瞬間目の前に広がっているようで、私は一人静かに興奮していた。
しかし驚きはそれだけでは終わらなかった。
脇道からさらに脇道に左折すると、その先には大きく陥没した道が。
こういうのがあってもクレームをいれる人がいない大らかさというか、そのままにしちゃう大胆さというか、適当さというか。その他のことも含め、一個一個検証していったらちょっと混沌としているところが、総じて私は好きだった。実際に生活していたら困ることもあるかもしれないけれど。でも、よそ者の自分でも「どーんとこい!」と言われているような安心感が、そこにはあったのだと思う。あ、ソコ(きのこ)じゃないですよ。
目の前で縁が崩れ落ちることもあった、実はちょっと危険な陥没地帯。残念ながら、5日目に塞がれてしまった。
”ソフト・スポット”を突かれっぱなしの2日目〜
トビリシには、驚きだけでなく”ソフト・スポット”をくすぐられるものが沢山あった。
街路樹
本当にこの光景が大好きなので、再登場。
写真からもわかる通り町には立派な広葉樹が植えられており、この時点で異国情緒を感じてしまう私なのであった。時には植え込みにザクロなどの実がなっていることもあった。
露店
例えば、道端で野菜や果物を売る露店商。トビリシ市内を歩いていると、しばしば露店に遭遇する。顔馴染みのお客さんと立ち話に花を咲かせる様子は、見ていてなんだかほっこりとする光景だった。
町の中心部ではさらに、服や雑貨、土産物など、様々な露店が並んでいた。中には「いったいどこで仕入れてきたんだろう」というものまで。デパートやショッピングモールのようにお行儀よくかしこまっていない感じが、私にとって未知の世界でもあり、どこか歩き慣れない感じがして逆に興味をそそられた。
秘密の小道
また、中心部にある通りを歩いていると時々トンネルやトンネルのような小道があって、つい寄り道したくなってしまう。ある時そのトンネルの一つをくぐってみると、その先には公園があった(さすがに「雪国」はありませんでした、はい)。
冗談はさておき、トビリシ市内には比較的小さな公園が無数に点在していた。その多くが表通りから一本裏道に入ったところにあるため、いつも秘密の場所を見つけたような気がして見つけたときにはワクワクした。
また噴水や遊具がある公園も多く、市民の憩いの場となっていた。ジョージいわく、「ジョージア人は噴水が好き」なのだそう。冗談か本気かわからないけれど、実際「どこにでも」と言っていいほど、町の中心では噴水を見かけた。
公園のほか、表通りに面した通りは住宅街への入り口であることも多い。なんだか秘められている感じがたまらなく好きだ。
“山大国”
そして、脇道がトンネルではない場合は坂道が多い、というのが私の勝手な思い込みである。なぜなら…
トビリシの町自体が山に囲まれているから。町の中心部であっても、山はすぐそこ。人で賑わう大通りと雄大な自然を感じさせる山という異色のコントラストも、トビリシならではの魅力だと思う。
野良犬と野良猫
そして異色のコントラストという点で忘れてはいけないのが、動物たちの存在だ。もしかしたら、これが私にとって一番大きなカルチャーショックだったかもしれない。
彼らの存在無くしてジョージアは語れないのでは、と思うほどジョージアには野良犬・野良猫がごく普通に町中で生活している。最初は「外で生活するなんて可愛そう」と、特に野良犬をほとんど見たことのなかった私は、どこか哀れむような気持ちで見ていた。
しかし、何日か滞在するうちにそうとも言い切れないような気がしてきた。というのも、まるで大昔からそうであったかのように、彼らは人とも適度な距離感で接しながら町で暮らしていたのだ。
町を歩くと、通行人の一人のように犬とすれ違う。レストランのテラス席で食事をしていると野良犬がやってきて、椅子の下に座ってくつろぐ。そして時々「ハーメルンの笛吹きですか?」というような人がいて、野良犬4、5頭を従えて歩いている。
特にご飯をねだらない犬たちには衝撃を受けた。彼らは決して人に食べ物をねだったり、人から食べ物を奪おうとしたりしなかった。一体どこでそんな良いマナーを身につけたのか不思議だったが、それが「ジョージアの野良犬と人は共生している」と感じた理由の一つだ。
ちなみに野良犬で耳にプラスチック・タグをつけているのは、予防接種と避妊・去勢手術を済ませた証だ。
ジョージアの基礎データ
最後に、ジョージアの基礎データをご紹介。
国土面積 | 69,700㎢(日本の約5分の1) |
人口 | 400万人(東京都は1400万人なので、その3分の1弱) |
首都 | トビリシ |
公用語 | ジョージア語 |
宗教 | ジョージア正教という正教会(キリスト教)の一員がメジャー |
通貨 | ジョージア・ラリ(ლ) 1ラリ ≒ 52円(2022年9月現在) |
ビザ | 日本のパスポート保有者の場合、無査証(ビザなし)で1年間滞在できる。 |
豆知識
ジョージアという国名は、ジョージア語で საქართველო(サカルトゥヴェロ)と言う。ジョージア人は ქართველი(カルトゥヴェリ)。「სა〇〇ო」(サ〇〇オ)で、「〇〇のいる/あるところ」という意味なのだそう。
日本からジョージアへの行き方
日本とジョージアを結ぶ直行便は今のところない。ということで、まずは約10時間のフライトで経由地ドバイを目指す。以下、私が体験した旅程をご紹介する。
日本時間の夜10時30分、成田発エミレーツ航空の便で日本を出発。
現地時間の朝4時30分、ドバイ国際空港の第3ターミナルに到着した。乗り継ぎのためシャトルバスで第2ターミナルに移動し、そこで約7時間のフライト待ちをする。ちなみにドバイとジョージアは標準時が同じ。
その後、フライ・ドバイ航空11時発の便に乗り、約2時間半かけて移動。現地時間の午後2時40分、晴れてトビリシ国際空港に到着した。
次回予告
最後まで読んでくださりありがとうございます。
今回は、私が個人的に「トビリシのここがおもしろい!」と感じたところをまとめてみました。ただまとめたと言いつつ、書き出したら様々なことが思い出されて、結果ボリューミーな記事になってしまいました。
トビリシに滞在したのは合計1週間と少しという短い時間でしたが、その間に感じたトビリシの魅力を少しでも読者の皆さんとも共有できていれば幸いです。
次週、後編では、2週間のジョージア滞在中に訪れた3都市——トビリシ、カヘティ、バトゥミ——の、個人的イチオシ・スポットをご紹介します。最近巷で美味しいと評判のジョージア料理も登場します。
前編・後編併せて読んでいただけたら嬉しいです。
(文・小林かすみ)