インタビュー・イースターのジョージアがおもしろい🇬🇪

目次

はじめに

4月下旬。

ワンダフルワンダー・非正規ジョージア特派員のジョージ(仮名)から、こんな写真が送られてきた。

「羊はまだ開けてないからちょっと見えにくい 笑」という一文と共に。

ん?ひつじ…?!思いの外リアルな上に、ポリ袋に入っているところが妙に気になる。聞けば、これらは「イースター」の写真なのだそう。

ということで今回は、遅ればせながらジョージアのイースターについて、ジョージ全面協力のもと調査する。

イースター、いつなのか問題

決まっているのは「春」と「日曜日」ということ。3〜5月の間で、毎年1週間ずつずれる。5月までいったら、また振り出しに戻る。

Lee_seonghakによるPixabayからの画像 

どうしてイースターの日にちは毎年変わるの?

イースターの日にちが毎年変わるのは、月の満ち欠けの周期に基づいているから。イースター・サンデーは必ず、3月の春分の日に続く最初の満月の後にやってくる。(抄訳:小林かすみ)

Why does Easter change every year? How different dates are calculated and when Easter Sunday falls in 2023(https://inews.co.uk/light-relief/easter-change-why-different-dates-how-calculated-when-sunday-2022-explained-1578049

さらにキリスト教の中でも、イースターの時期は宗派によって異なるのだそう。ジョージアと同時期にイースターを祝うのは、同じ正教会に属するギリシャやロシアなど。ということは、ジョージアにおけるイースターは宗教色の強いイベントなのだろうか。ジョージいわく、「教会に行く人もいるけど、家で祝う人が大半」とのこと。

また本誌でも以前取り上げた通り、ジョージアではクリスマスとお正月がセットになっている。そのお正月/クリスマスと比べると、イースターの方が宗教色が出ているそうだ。

インタビュー・冬のジョージアがおもしろい🇬🇪2話完結—お正月編

ところで今回ジョージが快くリサーチを引き受けてくれたので、これから彼の調査結果も小出しに紹介していく。以下は教会関係者の、イースターに関するQ&Aの一部。

Q. いつからジョージア人はイースターを祝うようになったのですか?

A. キリスト教が入ってきてすぐ、イースターと思われる一連の行事がおこなわれるようになったことが、当時のジョージア人と外国人の歴史家の残した書物からわかっています。

by 教会関係者(抄訳:ジョージ)

ジョージアのイースター日程表

前述の通り、イースターは必ず日曜日にやってくる。その前の金曜日と次の月曜日が休みになるので、土日を含めると4連休。そんな4日間の内訳は以下の通り。

金曜日:準備

土曜日:準備

日曜日:「イースター」食べる

月曜日:「死者の日」お墓参り

死者の日

少し脇道に逸れるが、「死者の日」とは何だろう。先ほどの教会関係者のQ&Aから引用する。

Q. 死者の日の由来は何ですか?

A. イースターの日も、その次の月曜日も教会は死者の日として認定していません。月曜日に墓参りすることは異教(キリスト教が普及する以前)の時代の名残です。

by 教会関係者(抄訳:ジョージ)

また別の記事では、ジョージアにおける「死者の日」がソ連時代に国中の教会が閉ざされたことに由来していると紹介されている。

Easter in Georgia: How to Celebrate Like a Local|Baia Dzagnidze

この記事によると、教会に行けなくなった代わりに、墓参りをすることで先祖に祈りを捧げたことが「死者の日」の由来だそうだ。またイースターがキリストの復活を記念し、永遠の生を象徴するものであることから、家族皆で生ける者も死せる者もこの日を祝うという意味があるらしい。この風習はソ連解体後も受け継がれ、今に至るということのようだ。

ジョージア流 イースターの祝い方

それではここから、本題であるジョージアのイースターの祝い方に迫る。

ジョージいわく、「祝うときは食べるだけだけど、準備する料理がいくつか決まってる。」とのこと。本当に食べるだけなのだろうか。ジョージの説明が大雑把なだけではと疑ってしまう私。

食べるのは深夜0時を回ったタイミング。つまり曜日がちょうど日曜日に変わったときで、お正月の祝い方と似ている(詳しくは『インタビュー・冬のジョージアがおもしろい🇬🇪』)。

と、ここでいきなりジョージが切り出す。

「そこで…」

そこで…?!

イースターといえば、「赤く染めたゆで卵」と「パスカ」というイースター限定ケーキ。

by George

いきなりノリノリのジョージ(笑)ではまず「パスカ」から見ていく。

パスカ

パスカとは、冒頭の写真にも写っているこの丸いケーキのこと。

中身はこんな感じらしい。

手作りする人もいるが、買う人も多いとのこと。またこのケーキはジョージアだけでなく、主に東ヨーロッパの方(ざっくり)では共通して食べられているものなのだそう。

イースターパスカの作り方 | えせ駐在妻(https://happy-yoppy.site/easter-paska/amp/

このレシピで紹介されているように、アイシングされたものなど、バリエーションがあるらしい。

気になるお味はというと…

美味しい。」

うーん、もうちょっと肉付けしてください。

超絶美味しいというわけではない。そんなに味が濃くないから。カステラ程度。

by George

その後「カステラの方が甘い気がする。」と訂正があった。

ちなみに、味も形も似ていると言われているのが、イタリアのパネトーネ(パネットーネ)というケーキ。こちらはクリスマスが近づくと日本でもイタリア系のパン屋さんで見かけたりする。

パネトーネ | Wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%8D

挨拶フレーズ

食べるだけということはないはず、と諦めきれなかった私。大抵こういうときにはお決まりの挨拶があるものだ。先ほども紹介した『Easter in Georgia: How to Celebrate Like a Local』の記事に、イースターのときの挨拶として次のようなことが書かれていた。

「ქრისტე აღსდგა!(khrist’e aghsdda)」キリストが復活した!

— 「ჭეშმარიტად აღსდგა!(cheshmarit’ad aghsdga)」実に、彼が蘇った!

(訳:小林かすみ)

と、文字通り訳すとこんな感じの挨拶をするらしい。一応ジョージにも事実確認をすると、彼自身は言わないものの、言う人も多いとのことだった。

羊ケーキの謎

ところで、普通のケーキの方が「パスカ」だということはわかったが、羊の方は触れられていない。どうやら冒頭で登場した羊のケーキは、ジョージアでも家庭によって買ったり買わなかったりするものらしい。インタビュー当初はその意味や由来もよくわからない、まさしく謎のケーキだった。しかしジョージのその後の協力で次のようなことがわかった。

羊はキリスト教においてイエスを象徴するもので、清純さを表している。絵画や聖画像などでイエスと一緒に描かれることも少なくない。

Georgia: Spring Festival Highlights Challenges | Tako Svanidze (Photo: IWPR Georgia) (https://iwpr.net/global-voices/georgia-spring-festival-highlights-challenges

あれだけ精巧なケーキ、食べちゃうのはちょっともったいないかも。たい焼きみたいに頭から食べる派、おしりから食べる派、とかあるのかな。

赤く染めたゆで卵

「パスカ」と「羊ケーキ」の謎もだいたい解けたところで、お待ちかねの「赤い卵」の出番。

https://www.palitravideo.ge/video/94377-ris-samkurnalod-gamoiyeneba-endro-romlithac-saaghdgomo-kverckhebs-vghebavth/

卵は自分たちで染めるそうで、染料となっているのはენდრო(endro)というアカネ属の植物の根っこの部分。

肝心の「なぜ赤く染めるのか」という点に関しては、諸説あるらしい。

①キリスト教の聖書に、「キリストが復活したときにそれを信じられなかった人が、『それが事実なら、この卵だって赤くなるはず』と言ったら卵が赤くなった」という箇所がある

②キリストの血を表している

また卵のディスプレイ方法もユニークで、まず小さな植木鉢に小麦を植えて、その芝生のように生い茂った小麦の上に赤く染めたゆで卵を置くそう。これについては、ジョージ・ママの情報とジョージの推測により、次のような仮説が立てられた。

これもキリスト教の要素はないとされている。イースターの行事は異教的なものが多く、イースターを祝う時期も春分と関係があることから、小麦(を植える習慣)はただ冬の終わりと春の始まり、自然の世界、特に稲作における「再生」を表している。

私はこれを勝手に巣だと思っていたが、どうやら巣ではないらしい。

あと卵の食べ方だね、変なのは。

by George

むむむ、「卵の食べ方」とは何ぞや。

<卵の食べ方>

お互いの卵をぶつけて割る。

いたってシンプル。でも「お互いの卵をぶつける」と聞いて私はてっきり、髭男爵みたいに「ルネッサーンス」って卵と卵をコチンッとやるのかと思った。ってもう古いですか。正確には、一人が卵を持って、もう一人が上からぶつける、ということらしい。

また、この卵を割る儀式の由来にも諸説あるそうで、メジャーな解釈は以下の2つ。

①(キリスト教以外)冬からの目覚め=氷が割れることの再現

②(キリスト教)神様との挨拶

やっぱりこういう昔からある行事って、ちょっとしたことにも由来があったり意味が込められていたりしていておもしろい!浅い感想ながら、自分の知らない話を聞くのって楽しいなぁと再認識させられたインタビューなのであった。

インタビュアー:小林かすみ

インタビュイー:ジョージ

リサーチ協力:ジョージ

見出し画像:Sofie ZbořilováによるPixabayからの画像 

おわりに

今回も最後まで読んでくださりありがとうございました!今後も機会があれば、こうした行事にフォーカスした記事も書いていきたいなと考えています。

意見や感想、「こんなテーマも知りたい」というご要望などあれば、ぜひワンダフルワンダー公式SNS、またはGmailまでお寄せください。

(文・小林かすみ)

About Kobayashi Kasumi 29 Articles
長期休暇に入ると海外行きたい欲求が高まる日本語専攻(2018年度入学)。2019-2022年度編集長。好きな本は片桐はいり著『グアテマラの弟』。