月替わりエッセイ、4月のテーマは「春」。
春と言えば、出会い、新生活、入学、入社、などを想像する人が多いだろう。
私がスーパーで買い物をしていると、春を感じさせてくれる、あるものたちに出会った。
フキ、フキノトウ、山うど、ワラビ、ノビル、タラの芽、せり…
私が愛してやまない、春の味覚の代表。「山菜オールスターズ」である。
愛してやまないとは言ったものの、実際に私が調理したことがあるのはフキとノビルだけだ。
家事力アピールも兼ねてちゃんと証拠写真を残しておこう。
一枚目はノビルを使ったパスタで、二枚目はフキの炊き込みご飯である。
ネギとニラの中間のような食感と風味を持つノビルと、ほろ苦くシャキシャキとしたフキ。
どちらも絶品だった。今週末は山うどの酢味噌和えでも作ろうかと考えている。
スーパーで売られている山菜は少量の割に値段が高く、そんなに簡単に手を出せるものではない貴重な食材なのだ。中にはアクが強く、下処理の時間が長くて面倒なものもある。
残念ながら、まだ十分に春の味覚を嗜むことができていない。
日頃からお世話になっている英語の先生はこの写真を見て、「What’s this?」と私に聞いた。
私はとっさに英訳ができず、言葉に詰まってしまった。
「え、これはFukiとか、Nobiruってそのまま言えばいいの?
でもそれじゃ絶対どんなものか分からないよね?」
そんなことを頭に思い浮かべつつ、とりあえず山菜の一種であることを説明した。
私は山菜を「Mountain vegetables」と、字のまんま訳した。
後から調べてみたら、山菜には「Edible wild plants」とか「Wild vegetables」とか様々な訳があった。
肝心のフキとノビルは、それぞれ「Japanese butterbur (Giant butterbur)」、「Wild rocambole」とあった。
ちなみにウィキペディアによると、正式な学名はそれぞれ「Petasites japonicus」、「Allium macrostemon」である。
こんな必殺技みたいな名称をいきなり投げられたところで、ネイティブでも訳が分からないだろう。
となると、身近にあるものを引用して説明する必要がある。
正解は一つではないが、例えばノビルに関しては「One of the edible plants in Japan which has similar taste like leek and Chinese chives」とでも言うべきか。
山菜一つの説明でも一苦労なのに、料理全体を説明するのに一体どれだけ時間がかかるのだろうか。
ノビルのパスタは分かりやすいが、フキの炊き込みご飯を一から説明すると、
「Seasoned rice with soy sauce, Japanese sake, sugar, soup stock of seaweed and Japanese butterbur (not the flower but the root) 」となる。
大学一年生だった頃、ある授業の課題の一環で、自分が作ったご飯のレシピを英訳したことがある。
和食の英訳のしづらざに苦戦し、辞書とパソコンを行ったり来たりした記憶が、この山菜説明問題の時に蘇った。
山菜に限らず、和食の料理名はもちろん、使用する調味料(特に「だし」)の英語による説明は困難で、それを外国の人が理解することも容易ではない。
料理に対する心構えから、作り方や食べ方を含めた料理のスタイルまでが、
国によって異なり、その国の色が料理に表れている。
もし今後外国人のお客さんを家に招いて、和食を振る舞う機会があったら、
箸の横に辞書とスマホを置いて、英訳の準備をしておこうと思う。
(文・安藤 真季)
参考文献
・アイキャッチ画像:「里山十帖」
・Butterburの由来:「うつくしき 自然と繋がる暮らし方」