せっかく海外に行ったのに、逆に慣れ親しんだものが恋しくなることがある。それはアメリカのコーヒーチェーン店だったりイタリアンだったりする。だからあえてここでは「日本のもの」とは言わず、「馴染みのもの」としておく。説明はさておき、そんな一種の郷愁を感じていた折、私は出会ってしまったのだ。
「泡立つこんぶ茶」に。
その謎の飲み物と出会ったのは、エニスタイモン(Ennistymon)というアイルランドの西方に位置する小さな町のカフェだ。ホテルで朝食→カフェという、なぜか朝からはしごがお決まりの元ホストファミリー親子とともに、その日も歩いてカフェ探しに繰り出した。
しかし外は小雨が降り続き風も多少出てきていたので、私たちはホテルからほど近いところにあるカフェに入ることにした。
入ってみるとそこは外から見た通りこじんまりとしたところで、窓際には何やら脈絡のない、壊れかけの装飾が並んでいた。腰掛けには手作りのような温かみのあるデザインの座布団が敷かれていて、とてもローカルな雰囲気だったのを覚えている。
メニューには特製サンドイッチなどもありそそられたが、なにせホテルで朝食を済ませた後だったので、代わりに何か温かいものを飲むことにした。そして見つけてしまったのだ、「こんぶ茶」を。これなら間違いないと思った私は、カフェラテでも紅茶でもなく、こんぶ茶を頼んだ。
さて、テーブルに運ばれてきたのは、縁日で見かけるラムネ程の大きさの瓶に入った、透明でピンク色の液体と、グラス代わりの小瓶だった。確認のため瓶の底を覗くとそこには昆布、ではなく澱(おり)が沈んでいる。
小瓶に注げば、まるで微発泡のお酒のように泡が出てくるではないか。これのどこがこんぶ茶なんだ。まさかとは思うが悪くなっているのではあるまいか。店内の冷蔵棚から直接運ばれてきたが、一体いつからそこにあったんだ。
私の頭の中は静かに混迷を極めていた。
そして申し訳ないとは思いつつも、旅先でお腹を壊すのは避けたかったので少しいただいて残りはホストファザーにあげてしまった。彼は帰りの道中で美味しいと言って飲んでいたが、私は衝撃が大きすぎてその味をまったく覚えていない。強いて言えば甘くてフルーティーな香りがした気がする。しかしそれも材料を見て後から付け足した記憶かもしれない。
ちなみに原材料には、「ろ過水、オーガニック・ホワイトティー、オーガニック・ベリーティー、オーガニック・シュガー、Kombuchaカルチャー(live Kombucha culture)、愛(love)」とある。最後の2つは何事だろう。日本でもたまにユーモアのセンス溢れる商品説明を見かけるけれど、ウケ狙いではなく割と真剣に原材料にこういうことを書く風土はないと思う。アイルランド、面白い。
あとで調べてみると、日本のこんぶ茶がその名の通り昆布にお湯をかけたものであるのに対し、海外で言うKombuchaは緑茶やブラックティーをベースに発酵させた、いわば健康ドリンクのことなのだそう。完全に騙された。というより私が知らなかっただけなのだが、このニュースは大きな衝撃をもって日本にいる家族に伝えられることとなった。
『役に立つかもしれない海外の小話』シリーズに続き、予想の斜め上をいく海外のお茶のお話でした。
(文・小林かすみ)