留学には行けないけれど、この時間をたいせつにしていこう — 月替わりエッセイ第14弾

 

我が家の末っ子は、黒くて、小さい。

おまけに目はビー玉のようにまん丸でキラキラしていて、おしりにはドーナツがちょこんとのっかっている。

 

性格はとっても甘えん坊で、社交的で、かなりマイペース。

典型的な末っ子気質なのだ。

 

我が家の末っ子は「パグさん」だ。

犬というよりは、どこか遠い宇宙からやってきた生命体に近い。

「なでてくれるの?なでていいんだよ?」とでも言いたげな目。

 

この摩訶不思議な存在と出会って、もうすぐ3年。

今年に入って、私たちは今まで以上に強い絆で結ばれるようになった。

 

新型コロナウイルスの蔓延によって、大学はオンラインに移行。

パグさんとは、四六時中一緒にいるようになった。

 

昼間も家に人がいるものだから、パグさんにとっては毎日が週末のようだったに違いない。

普段の留守番では何時間でも寝ているのに、在宅勤務をする母の傍で「かまってちゃん」に変貌して母の手を焼かせた。

 

やがて母は在宅勤務の頻度が減り、はオンラインでの留学が始まった。

家にはパグさんと私(と11才のカメさん)が残った。

趣味はスリッパを集めること

 

時差のある私の生活の影響だろうか。

これまで超がつくほど早起きだったパグさんも、今ではときどき朝寝坊をする。

 

朝ゆっくり起きて、通勤時間帯を避けて散歩にでる。

その日の行き先は、パグさん次第。

 

このときだけは、閉塞感から解放されて、モヤモヤした気持ちも忘れられる。

中にはパグさんに話しかけてくれる人もいて、気づけばも知らない人と話している。

 

こんな日々が、いつしか私たちの日常になっていた。

平凡かもしれないけれど、毎日ちょっとずつ違う。

 

留学に行っていたら、手に入らなかった時間。

そう思ったら、こんな時間も、少し愛おしく感じられる。

 

もしかしたら、オンライン授業が始まってからのこの日々は、嬉しいことや楽しいことより、大変で、苦しくて、逃げ出したくなるようなことの方が多いかもしれない。

だけどどんなときも、私のとなりにはパグさんがいる。

しあわせな寝息を立てて。

 

(文・小林かすみ)

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長期休暇に入ると海外行きたい欲求が高まる日本語専攻(2018年度入学)。2019-2022年度編集長。好きな本は片桐はいり著『グアテマラの弟』。