ブラックライブズマターについてざっくり知る、第一弾は以下のリンクから読むことができます。
2020年、ブラックライブズマター運動はパンデミックの波にのまれることなく続き、2か月以上が経つ。アメリカ国内史上最大とも言われる今回の運動はそれにとどまらず、世界中に広まった。より多くの人が多くの場所でこのトピックについて議論し、情報をシェアする中で、頻繁に登場する言葉がいくつかある。この構造的差別問題を考えていくなかで、人々がタブーと見るような概念があったり、目新しい言葉が飛び交うようになったり。ブラックライブズマター、日本では特に、ちょっと下火になってきたんじゃない?時間が経過しつつあるこの問題を読み解くためにかかせないキーワードたちを通して、少しずつでも考え続けるのは、ありだと思う。
All Lives Matterは、なんでだめ?
Black Lives Matter に対立するような文言として、All Lives Matter がある。一見、すべての命を大切にしているようだし、黒人だけではない他の人種や性差別など、全部を包括しているようにも受け取れる。ブラックライブズマター運動から派生して、世界のアジア人差別や、日本国内の外国人への差別問題にも目を向けよう、というポジティブな使い方もできるように見える。しかし、
“All Lives Matter” は “Black Lives Matter” の目的を妨げるものとして扱われる。
というのは、All Lives Matter のはじまりはブラックライブズマター運動に対し、差別されているのは黒人だけではない、白人の命だって危険にさらされている、といった考えから用いられたもの。つまりこの運動を否定しているとも言える。当たり前かもしれないが、Black Lives Matter は、他の人々の命を軽視して黒人の命を守れ、と言っているのでは決してない。彼らの命が他の人間と比べて軽んじられている現状を訴えているのである。
この概念を非常にわかりやすく説明していた、日本に住むダリル・ワートン・リグビ氏の言葉をお借りさせてもらうと、するっと納得できるかもしれない。
“もし私の家の近所で火事があったら、私はまずその人の家の火を消そうとする。まず自分の家や近隣の家の心配はしない。なぜならそこで火事はおきていないから。大事なのはその近所の燃えている家。消防署に電話して、その火を消してもらう。苦しんでいる人がいれば救急車を呼んで必要な手当てをする。だから “All Lives Matter” と言うことは、論点をずらしていること。火事がおきている家ではなく、他のすべての家に注目するようにしている。今この瞬間も、昔から、黒人の命もこの家のように炎上している。黒人の命は、象徴的に、そして実際にも燃え続けている。だから、“All Lives Matter” というのは注意をそらしているだけ。または見たくないものから目を背けている。もしこのように言っているなら、自分の中で考えなければいけない。なぜ火事がおきている家に集中しないのか、と。”
Darryl Wharton-Rigby氏 BLM TOKTO リアルトーク より
Privilege Testをやってみる
黒人の人々は、そんなに自分たちと違うのか?と思ったら、特権テスト(Privilege Test)を受けるとその差異がはっきりとわかるかもしれない。今回の運動とともにTik Tokなどで注目を集めたこのテスト。両手を掲げ、質問にあてはまったら指を一本ずつ折っていく。最後に残った指の多さで自分が無意識に持つ特権がわかる、というもの。質問内容は、肌の色が理由でサービスを断られたことがあるか、誰かがあなたとすれ違うことを避けるために道を渡ったことがあるか、子どもに、警察によって殺されないためにはどうするかを教えたことがあるか、など。世界には黒人の他にも、こういった経験をしている人々もたくさんいるだろう。大事なのは、自分の特権を自覚すること、そして黒人やその他の人々の置かれた状況を理解すること。
注目すべき、交差性(Intersectionality)とは
ブラックライブズマターの議論のなかで頻出度が高まる、Intersectionality。交差的に結びつく社会的区分のことで、交差性と訳される。区分というのは個人やグループが振り分けられる階級、性別、人種など。例えば、女性や有色人種、LGBTQIA+の人々は、雇用条件や偏った価値観などにより社会的な地位が下がることがある。ではトランスジェンダーの黒人や、ヒスパニック系の女性や、貧困層出身のアジア人はどうなるのか。それぞれの区分で受ける差別的対応が重なり、さらに酷い差別につながっている、というのが交差性の表すところである。
Womanism
そもそも交差性という言葉が差別問題ではじめに登場したのは、女性の権利向上運動である。かなり昔から続いているけれど、全くゴールに達しないので近年も盛んに行われる性差別に対する訴え。しかし今までのフェミニズム運動の中では、人種が課題にあがることもあった。例えば2017年にトランプ大統領就任翌日にワシントンで注目されたウーマンズマーチ。主催者の中に有色人種が少ないとの声から改革がなされた。フェミニズム運動を通してその中心や被害者として取り上げられるのが白人女性ばかりである、と感じてきた黒人女性たち。そこで黒人女性にフォーカスする、Womanismという言葉が登場した。アメリカの作家であるアリス・ウォーカーにより造られたWomanismの概念は、黒人や有色人種のフェミニストのことで、他の女性を愛する女性たち、だそう。
Black Queer Lives Matter
交差性はLGBTQIA+コミュニティにも大きな影響をもたらしており、今回のブラックライブズマター運動のなかでは黒人のクィアに特筆した、Black Queer Lives Matterという文言もよくみられる。2011年には黒人LGBTQIA+の38 %が警察にハラスメントを受けたというが、これは白人LGBTQIA+の2倍だそう。中でもトランスジェンダーへの偏見が大きいことから、Black Trans Lives Matterという言葉も登場している。
シェアだけじゃ終わらない
今回のブラックライブズマター運動でかなり大きな役割を果たしたのがSNS。COVID-19の影響もあり、外に出られない状況下で、人々は実際のデモだけでなくソーシャルメディア上で情報をシェアしまくった。運動の内容やその拡散はもちろん、今までに起こってきた警官による黒人殺害事件について、また奴隷制度からはじまるアメリカの黒人の歴史を学べるコンテンツなど。
Performative Activism
そんななか、ただタップしてシェア、という簡単な行動のためにそれをしただけで満足しているのではないかとか、流行りにのっているだけではないかという声が上がってきた。これがPerformative Activismと呼ばれるものである。企業や著名人がブラックライブズマター運動への共鳴をSNSで示したり、個人も含め連帯を表明するためにインスタグラムに一斉に黒い四角の画像を投稿したり。このような行動が、切実な貢献からではなく表面上である場合が蔓延しているというのだ。関心を広めたり、きっかけをつくるという点では意味があるのかもしれないが、流れにのって忘れてしまう、Performative Ally にならないための方法を考える必要があるだろう。
世界中で日々、すべてを把握するには多すぎるほどいろんなことが起きている。だからアメリカで始まった今回のブラックライブズマターもまた一時の運動にすぎないし、その時に少し考える人が増えればそれでいい、のだろうか。考え続けないと、課題はすぐに見えなくなってしまう。そしてまた、当事者だけが社会の片隅で苦しむ日常が戻ってきてしまう。ほんの少しでも頭に入れておいて、きっかけがあってもなくてもぱっと取り出せるくらいのところに、そんな風に課題を持ち歩きたい。
〈参照〉
Real Talk by Black Lives Matter Tokyo (https://blacklivesmattertokyojp.carrd.co/)
Rega Jha, Tommy Wesely, BuzzFeed, 11 April 2014 “How Privileged Are You?” (https://www.buzzfeed.com/regajha/how-privileged-are-you)
Buzzfeedvideo, 13 June 2020, “People Try The “Check Your Privilege” Tik Tok Challenge” (https://www.youtube.com/watch?v=1KSxfhtRjHE)
Alia E. Dastagir, USA TODAY, 19 Jan 2017, “What is intersectional feminism? A look at the term you may be hearing a lot” (https://www.usatoday.com/story/news/2017/01/19/feminism-intersectionality-racism-sexism-class/96633750/)
ADP, 5 Feb 2020, “What is Intersectionality and Why is it important?” (https://www.youtube.com/watch?v=3qhadch9oDo)
Monisha Rudhran, ELLE AUSTRALIA, 3 June 2020, “What Is Performative Allyship? Making Sure Anti-Racism Efforts Are Helpful” (https://www.elle.com.au/news/performative-allyship-23586)
Maia Niguel Hoskin, Ph.D., ZORA, 10 June 2020, “Performative Activism Is the New ‘Color-Blind’ Band-Aid for White Fragility” (https://zora.medium.com/performative-activism-is-the-new-color-blind-band-aid-for-white-fragility-358e2820a4e1)
instagram: @blossomtheproject
*最終閲覧日2020年7月31日
(文・大竹くるみ)