本記事はシリーズ企画「Pride Month特別企画 外大生×UofT生」の最終回です。今回は、今我々が抱えるLGBTQ+に関する問題や、それに対して私たちが感じること、そして将来につながる話をお届けします。
これまでの記事:
Pride Month特別企画 外大生×UofT生 日本・カナダ・アメリカで感じたLGBTQ+問題
Pride Month特別企画 外大性×UofT生 各国のエンタメ業界を取り巻くLGBTQ+問題
<用語解説>
LGBTQ+【Lesbian, Gay, Bisexual, Transgender, and Queer/Questioning +】
レズビアン(同性愛の女性)、ゲイ(同性愛の男性)、バイセクシュアル(両性愛)、トランスジェンダー(性自認と出生時に割り当てられた性が異なる)、クィア/クエスチョニング(性的少数者の総称/性自認や性的指向が定まっていない、あるいは定めていない)。*現在LGBTQIA+など様々な名称が使われていますが、本記事ではLGBTQ+で統一しています。
プライドマンス【Pride Month】プライド月間。「ストーンウォールの反乱」を記念して、1970年代前半から行われるようになった、LGBTQ+について考える月間。*本記事では英語表記のPride Monthを用いています
性自認【Gender Identity】ジェンダーアイデンティティ。自身のジェンダーの帰属に関する心理的な自己認識。
性的指向【Sexual Orientation】どのジェンダーに対し性的欲求を持つか。
セクシュアルマイノリティー【Sexual Minority】性的少数者。性的マイノリティー。セクマイ。
セーフスペース【Safe Space/Zone】LGBTQ+問題について学ぶことで目指される、差別や偏見のない空間。
アウティング【Outing】本人の許諾なしに、他人の性指向や性自認を第三者に公開すること。
ヘテロノーマティビティー【Heteronormativity】異性愛規範。異性愛を唯一の性的指向とする考え。
ジェンダーノーム【Gender Norm】ジェンダー規範。ある特定のジェンダー(男、女など)に対し、その在り方や振る舞い、外見を規定するもの。
シスジェンダー【Cisgender】性自認と出生時に割り当てられた性(身体的性)が一致している人。例:出生時に男性と判断され、自身も男性だと自認している。
<スピーカー紹介>
小林かすみ(東京外国語大学3年、日本語専攻)
M(トロント大学新3年、ジェンダー学と宗教学のダブルメジャー&政治学のマイナー)
*ダブルメジャー【double major、二つの学問分野を専攻すること。北米の大学に多い】、マイナー【minor、副専攻】
- カテゴライズする必要性を疑問視する声についてはどう思う?
—— 今回の(国際比較っていう)メインのトピックからは少し外れちゃうから、このテーマは外そうと思って。せっかく色々考えて書いてくれたんだけど…。
私たちの事前打ち合わせの原稿。上の私の問いかけに対し、以下にMの意見が続く。
M このテーマって興味深いというか重要だなって思う。黒人差別問題でAll Lives Matterが問題になったじゃない?そのAll Lives Matterっていう考え自体は悪くないと思うけど、ただ使うコンテクストがちょっといけないよねってことなんだよね。だけど今だとAll Lives Matterっていう考え方自体がいけないみたいになっちゃっている気がする。LGBTQ+問題も似ているのかなって。全く同じとは言えないんだけど。
—— うん、うん。
M 私の個人的に目指す社会っていうのは、恋愛や個人が性的指向とか性自認とかによって定義されない社会。その人が好きな人と付き合えばいいし、別に付き合わなくてもいいし。好きな人や付き合う人が男でも女でもXジェンダーでもいいし、それが毎回変わってもいい。それに対して社会が「ゲイだから」「レズビアンだから」「バイセクシュアルだから」「〜だから」ってカテゴライズすることによってそこの自由がきかなくなっちゃう。恋愛や個人に制限をかけていると思う。結局それって「誰と付き合うか」ではなくて「どの性別やジェンダーの人と付き合うか」で恋愛を判断しているってことじゃないかな。分類っていう行為が物事を単純化してそうに見えて、反対に難しくしている気がする。
私たちの意見が少しわかりにくくなってしまったのでまとめると…
× カテゴリーをなくして「みんな同じ」とみなす
○ カテゴリーにとらわれず、一人ひとりを「個々の存在」として認める
- 今後のLGBTQ+における問題にはどんなものがあると思う(日本やカナダ、その他の地域で)?期待や、目指しているものはある?
—— 私個人としては、LGBTQ+が、というよりジェンダーの話題そのものが、タブーな話題じゃなくなればいいなって思う。今はその話題を持ち出すことが特異な事例として見られる節がある。大学とかだと「アカデミックな場」っていう設定があるから問題ないんだけど、社会で「ジェンダーについて話しましょう」って言うとまた別な意味が与えられてしまう気がする。ジェンダーについて話すのは特別なことじゃなくて日常になるべき。だって実際、マイノリティーかマジョリティーかは別として、みんなに当てはまることだから。だからLGBTQ+やジェンダーという話題がタブーじゃなくなればいいなって思った。
M 目指しているものとしては、これは日本とかカナダとかは別として、性的指向とか性自認っていうもので、個人が定義されない社会かな。さっきも言ったみたいに、「この人は良い学生だけどゲイなんだよ」とか、「この人はすごい演技上手いんだけど、でもレズビアンなんだよ」みたいな言い方がされたりするじゃない?LGBTQ+であることは全くいけないことじゃないし、それはその人のいくつもあるアイデンティティのうちの1つに過ぎない。なのに、それだけで人を判断して、その人の能力とかを定義しちゃうってどうなのかなって思う。LGBTQ+への偏見・差別がある中で、それはすごくアンフェアだなって。
M あとはシスジェンダー【cisgender、性自認と出生時に割り当てられた性が一致している人。例:出生時に男性と判断され、自身も男性だと自認している。】や異性愛が当たり前っていう概念をなくしていきたいなって思ってる。今はセクシュアルマイノリティー【sexual minority、性的少数者】っていう言葉があるけど、結局みんながマイノリティーだと思うのね。一人ひとり恋愛のあり方や性のあり方って全然違うし、本人が気づいてないだけで、分類してみたら今マイノリティーと言われているカテゴリーに入るかもしれない。だからそうしたらもう、恋愛の仕方、性のあり方っていうのは一人ひとり全然違うよねってことで、「異性愛が普通」、「シスジェンダーが普通」っていうのは言えなくなると思う。だからLGBTQ+っていう言葉がなくなるのが理想。セクシュアルマイノリティーっていう言い方もなくなるのが理想かなって思う。めちゃくちゃ理想論ね(笑)
—— でも何の考えもなしに進めることはできないと思うから。理想論だとしても。
—— みんなが当事者意識を持つことって大事かもね。今の話を聞いてて思った。さっきの日本社会の話にも絡んでくると思うけど、マジョリティー、マイノリティーっていう境目を意識している限り、「自分はマジョリティーだから、マイノリティーはあっち側」みたいな目で見ちゃうと思うけど、そうじゃなくて、そこの境目を外して、自分たちみんなの問題——問題って言って良いのかな、とにかく当事者意識を持つことが大事なんじゃないかな。
- コミュニティーの中での差別
M あとは今の話をすると、セクマイ当事者のコミュニティーの中での差別も見ていけたらいいねっていうことかな。
—— コミュニティーの中での差別?
M そう。LGBTQ+っていうのをひとつのコミュニティーとして考えたら、その中でもやっぱり社会での差別の違いはあるわけじゃない?障害をもっているセクシュアルマイノリティーと健常者のセクシュアルマイノリティー。あとは日本で言ったら日本人のセクシュアルマイノリティーと、日本に住むノンジャパニーズ(non-Japanese、非日本国籍の人、日本以外にルーツをもつ人など)のセクシュアルマイノリティーとか。そこでまた差別に違いがあったりするのね。今の社会、日本社会だと特にLGBTQ+が画一化された団体みたいに捉えられていて、内部構造が全然見えていない。だからそこにもフォーカスできるといいのかなって。そもそもLGBTQ+、LとBとGとQと+って、一つひとつ違うんだよっていうところもちゃんと見ていかないと、結局あんまり解決にならないのかな。
—— なるほど。
- ジェンダー学
——あと何かある?
M あと何か(笑)? あ、私が研究したいと思っていることはって話になるんだけど、何で宗教学をやってるのかって話ね。私は日本でのジェンダーシステム、要は男女二元論とか異性愛が当たり前となってるこの社会、ヘテロノーマティブ【heteronormative、異性愛規範】な社会っていうものがどうやって歴史の中でつくられてきたのかっていうのがすごく興味があって、それを特に宗教の面から見ていきたいのね。宗教ってすごく社会に影響を及ぼしているから。だから今は宗教学で特に仏教とかをやっていて。宗教の社会的役割・機能とかも学びつつ、ジェンダー学の中でもセクシュアル・ダイバーシティー・スタディーズ【sexual diversity studies】を勉強して、この2つを融合させたい。日本社会でどういうふうにジェンダーシステム、ジェンダーノーム、ヘテロノームとかが作り上げられてきたかっていうのを研究したいと思ってます。
—— 面白そう。聞いただけだけど、私自身日本語専攻で日本に関する授業を取ってるからそういうの興味ある。最後どんな研究結果になったか聞いてみたいな。
—— ジェンダーの問題って、ジェンダーに限らずかもしれないけど、色んなエリア——今エリアとして分けてるものも結局は繋がってて——関わってくるから、切っても切れないなって思う。
M ジェンダー学は特に広いからね。その中にLGBTQ+問題について学ぶ、要はクィア・スタディーズもあるし、セクシュアル・ダイバーシティー・スタディーズもあるし、フェミニズム、女性学、男性学、めちゃくちゃいっぱいあるし、ジェンダー学は人種差別とかの勉強もするから。本当に枠が広くて、色んなエリアに繋がってくる。
3週間にわたってお伝えした「Pride Month特別企画」もこれで終わり。2週目からは7月となりPride Monthではなくなってしまったが、「Pride Monthが終わっても考えるのをやめてはいけない」という思いもあり、そのままのタイトルで続けた。
他の人の意見を聞くことで新たに得られる考えや視点はたくさんある。私自身、Mさんの企画したオンラインイベントや今回の対談が、これまでの自分の言動を見直す機会となった。中には過去に自身が使った言葉が、実は差別的な意味合いを含むことがあると知ったものもある。それは実際に声に出してたり、他の人の話を聞いてみたからこその気づきだと思う。
もちろん、こうした話をするのは易しいことではないし、むしろ避けていた方が「自分」は楽かもしれない。しかしそのまま知らずにいれば、いつか無自覚のうちに人を傷つけてしまう可能性だってある。またもしかしたら、「思いやりを持っていれば特に知識は必要ない」という意見もあるかもしれない。たしかに、誰に対してであっても相手に配慮したり気遣ったりすることは大切だと思う。しかしそうした「気持ち」だけでは気づけないこともあるのではないだろうか。だからちょっとの努力で、少しでも多くの知識と理解を持ちあわせていた方が、何も知らないよりずっといいと私は思うのだ。
今回の対談の最初にMさんが言っていたように、身近なところから少しずつでもこの話題に触れる機会が増やしていくことが、今の私たちに求められていることだと思う。そうすればきっと、LGBTQ+やもっと広くジェンダーに関する話題も、より話しやすいものになっていくはずだ。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
そして今回の企画を行うきっかけをくれて、対談から編集まで快く協力してくださったMさん、本当にありがとうございました!
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参考文献および画像引用元
『いらすとや』https://www.irasutoya.com(最終アクセス2020/06/28)
「ジェンダーとは?ジェンダー、性などの基本用語を解説します。」(2018/09/21)『UN Women — 日本事務所』https://japan.unwomen.org/ja/news-and-events/news/2018/9/definition-gender(最終アクセス2020/06/28)
「トランスジェンダーとは?性同一性障害との違いや意味」(2018/12/12)『LGBT不動産』https://lgbt-fudousan.com/diary-detail-417259/(最終アクセス2020/06/28)
りかりん(2019/05/06)「LGBTQ・LGBTQIAとは?【自分の性がきっと見つかる!】」『JobRainbow』https://jobrainbow.jp/magazine/whatislgbtqia(最終アクセス2020/06/28)
りっきー(2019/12/24)「LGBTQ+のQとは?【実はよく知らないクエスチョニング・クィア】」『JobRainbow』https://jobrainbow.jp/magazine/queerandquestioning(最終アクセス2020/06/28)
JobRainbow編集部(2018/11/06)「あなたもそうかも!シスジェンダーとは?【セクシュアル“マジョリティ”?】」『JobRainbow』https://jobrainbow.jp/magazine/cisgender(最終アクセス2020/06/28)
(文・小林かすみ)