留学生に視点を当てた『留学生と・・・』シリーズ第1回目!日本語劇を演じた韓国人留学生の語学に対する熱い情熱とは・・・

この東京外国語大学。

いかんせん大学名に「外国語」が入るほどであり、入学した時点で外国語からは逃げられない。そんな中、なんとも不思議な学科がある。

日本語科である。(注1)

私も色々ありこの学科を選んだわけなのだがおそらくこの大学に入ってからというもの、
「え、なんで日本語科なの。」「え、なに勉強してるの。」というたぐいの質問を90回くらいされた。しかしながら、外国語を学ぶ大学という認識がやはりあるので、当然の反応であるともいえよう。日本語科在籍、三年目になるのにもかかわらず私の両親も「お前は大学で何を学んどるんや。」と聞いてくる始末である。(帰省するたびに聞いてくるので私もいつからか説明しなくなった)

とはいえ毎年日本語科の新入生との顔合わせに行くとみんな、なかなかにしっかりした理由で入ってきているのである。例を挙げれば「日本語教師になるために日本語教育を学びたい。」「海外に行くことで自分がいかに日本に関して無知か分かったので学びたい。」などなど・・・私が偏差値的に行けそうだから入ったということはヒミツだ。

こんな感じで独特の立ち位置を築いている日本語科であるが最も大きな特徴であるのは、外大の中で随一の海外からの留学生の多さである。毎年のことであるが日本人の数よりも留学生の数の方が多いのだ。そして日本人も留学生も同じ教室で同じ授業を受ける姿というのはこの大学の中でも特別なものであろう。そもそも大学構内を歩いてみると、留学生の姿は普通に目に入ってくる。

そんなわけで、私にも自然と留学生の友人、知り合いが増えていき今に至るのである。なので、ここでは留学生の彼らが、何を思いながらどんな生活をしてるのか、そもそもなんで日本に来たのか、などなど聞いてみなけりゃ分からないところにフォーカスを当てていきたい。

第一回目として話を聞かせてもらったのは、私が一年の頃から付き合いの長い同期であり、韓国からの留学生であるキム・ドンスである。(本当の名前は全く違うのであるが本人に記事を書く上でどんな名前で書いて欲しいか聞いたらこれを出してきた)
笑顔が素敵なナイスガイである彼も今年で32歳だという。留学生にわりとあることなのだが彼らは母国で別の大学に通った後に日本に来たり、何年か日本語学校で学んでからこの大学に入ったりというパターンが多いので同学年であっても年上であることがざらなのだ。

一応、基本的な質問から聞こうということでまずは日本に留学に来たきっかけを聞いてみた。もともと彼は理系の大学に通っていたのだが本屋でバイトしていた時に日本の小説に興味を持って、日本語を学ぶきっかけとなったそうだ。歴史小説をよく読んでいたようで、特に影響を受けた作品を聞いたところ『徳川家康』だという。日本の小説やらアニメやら、作品に触れて留学を志すというのはよくあることらしい。彼は『徳川家康』のいかなる部分がおもしろかったかも説明してくれたのだが私が日本史を勉強してないので「家康が信長に捕まっていた(?)」みたいなとこしか理解できなかったので割愛。(注2)

彼を記事に取り上げたことには訳がある。これは大学で彼と演劇で同じ舞台を踏んだ時にさかのぼる。彼はそのとき人生の中で初めて、日本語で演ずるということに挑戦することになったのだ。結果から言うとその公演で彼は大成功をおさめ、お客さんからのアンケートも上々だった。外国語で演じるということはなかなかに難しかったはずだ。アクセントや発音やらと少しでもおかしなところがあるとお客さんに気付かれてしまう。それを違和感なくやってのけるまでに日本語を習得した彼の勉強法を聞けば、今外国語を学んでいる人、これから日本から海外に留学に行く人の外国語習得の参考になるのではと考えたのだ。そこで単刀直入に聞いてみた。「どうすれば外国語ってうまくなるかな?」彼は優しい目をして答えた。

「時間が経てばうまくなるよ。」

・・・そうなんだろうけども、そうじゃないのだ。確かにもっともなんだろうけど、こう、そうじゃない。それではなんていうか質問が終わってしまうのだ。ドンス、そうじゃない。「こう、もっと具体的にある?」と聞くと、ひねり出してくれた。
「うーん・・・その国の人と仲良くなるとやっぱりうまくなるねえ・・・あと劇やった時はアクセントなんかはバイト中もずっとぶつぶつ練習してたかなあ。」
なるほど、よくあるアドバイスと言えばまあそうであるがここまで日本語がうまい彼が言うと説得力がある。ちなみに、このインタビューをしているときももちろんずっと日本語である。というより彼と出会ってから日本語でしか会話をしたことが無い。そのくらい彼は流暢なのだ。もうお分かりかと思うが日本語科に入ると留学生の多い環境になるので、たまに親から「韓国語とかもう話せるんやないのー?」とか言われるけど、別にそんなことはない。なぜなら留学生たちが普通に日本語を話すからだ。

彼から話を聞いていて感じたのは、日本語への情熱である。普段温厚な顔つきの彼もバイト中に熱心になるほどに日本語を習得することに今も情熱を持っているのだ。外国語習得にはどんな理由であっても自分を突き動かすものが必要なのであると去年、イタリア語の単位を落とした私は気づいた。

ちなみにそんなドンスが最近、刺激的だった体験は街コンに参加したこと。街コンというのは女性男性それぞれ結構な人数で行われる合コンパーティーのこと。参加してみた感想を聞いてみたところ、
「うーん・・・ちょっと30歳以上はねえ・・・やっぱり大学生がいいねえ・・・」
そう嘆く32歳であった。

(注1)・・・ここでは言語文化学部日本語専攻と国際社会学部日本地域専攻をまとめて「日本語科」と書いています。

(注2)・・・のちのち調べたら子供時代の徳川家康が信長のお父さんの織田信秀さんのもと人質になっていたというもの。いろいろあったんだなあ。

(文・三木建五郎)(題字、イラスト・栗)