ゲスト:ラオス語科 山崎友里加さん
自己紹介
ສະບາຍດີ!
東京外大ラオス語専攻2年の山﨑友里加です。小学生のころから言語を学ぶことが好きで、英語や韓国語、中国語、ドイツ語など興味のある言語を幼いながらあいさつ程度ですが独学で学んでいました。高校受験の時に、私の恩師である塾の英語の先生に東京外国語大学という学校があるということを教えてもらってからずっとこの大学を志していました。
そういうわけで、絶対何語がいいという強い希望は特になく、まあセンターの結果もまずまずだったのでセンターリサーチの結果で手が届きそうなところに・・・と思っていろいろな言語の文字や発音、地域的特性などを調べてラオス語に出願!したんですけど、なんと私の年は言語文化学部のラオス語学科の前期倍率9.6倍だったんですね・・・ん~なんとか入ってきました(笑)
サークルは、一年生の時から英語を使ってガイドやディスカッションなど様々な活動をするESSに所属していて、このWonderful Wanderのライターとしての活動にも今年から参加します。第6号では春休みラオスに行ったときのお話を書く予定なのでぜひご覧になって下さい!
加瀬:ローマ字を用いない言語を扱うのは今回の記事が初めてですね。そして実は、後述のように友里加さんは本情報紙のメインライターの一人でもあります。では友里加さん、よろしくお願いします。
なぜラオス語を専攻したのか
これ入学してから100回以上聞かれました。中学・高校の同級生、親戚、バイトやサークル、人に会うたびに聞かれました(笑)先ほども言ったように外大で言語を学びたいという思いが強すぎて言語自体に固執はしていませんが、強いて言うなら、ラオス語は専攻語27言語の中でも特に多くの日本人がまだ知らない国の言語で希少価値が高いと感じたからです。
ラオスはアジア最後の地と言われるくらいまだ先進国に手をつけられておらず、東南アジアの他の国と比べても開発されていないことが明らかです。「開発されていない」という言葉を悪い風に捉えるとまだまだ発展途上、不便な生活、不衛生などのイメージが浮かんでしまうかもしれませんが、逆に今もまだ利潤を追い求める先進国の波にのまれていないために、豊かな自然と温厚な人柄が残されたアジア最後の楽園だと、私はとらえています。
ラオス語の魅力などについて語る
ラオス語は、主にラオスに600〜700万人、隣国タイの東北地方に2400万人の話し手がいるといわれています。「孤立語」と呼ばれるタイプの言語で、日本語や英語とは異なり、語形変化もなく文の各成分の文法的機能は語順によって決まります(『ニューエクスプレスラオス語』より)。これはどういうことかというと、例えば
*私は学校に行く
→ຂ້ອຍ(私)+ໄປ(行く)+ໂຮງຮຽນ(学校)
*彼は私に言った
→ລາວ(彼)+ບອກ(言う)+ຂ້ອຍ(私)
この二つの文を比べると1文目は「私」が主語ですが、2文目は「私」は英語でいう目的語に当たります。英語ならば2文目の「私」は目的格にする必要があるためI→meと変換する必要がありますが、ラオス語はその必要がないということです。またお気付きのように動詞の過去形もありません。その点ではヨーロッパ諸語よりはるかに学習しやすいと感じています。
加瀬:前回のフィリピン語においても、時制の概念が存在しないということを大きな特徴として挙げました。ラオス語も動詞の時制による変化が存在しないということで、東南アジア諸言語の多くに共通する特徴が見えてきたような気がします。私は東南アジアの言語としてはインドネシア語を学んでいるのですが、同様に動詞の時制による変化が存在しません。
そしてなんといってもこの言語の一番の魅力は音です!(少なくとも私と私の語科の友人はそう話しています)日本語にない音がたくさんあって面白いですよ。時々授業中笑っちゃったりします。現地の人のラオス語を聞いていると本当に可愛らしくて心穏やかになります。
例えば
「交通ルール」→「ごっちゃらちょーん」
「頑張って!」→「ぱにゃにゃーm」(nは「ん」の音ではないので敢えてこの表記)
「ラオス語は難しいですか?」→「ぱーさーらーお にゃーくぼー?」
「まっすぐ進んで」→「ぱい すーすー」
「(ジョークを言った後で)いやいや冗談だよ~」→「わおよーく すーすー」
自宅で音読練習していると母に、「本当にそんな言語あるの?」と聞かれます。
あります(笑)
ラオス語を学ぶ上では、ここが難しい!
わたしが一番難しいと感じるのは声調と発音です。
また例をあげます。例えば
ປ(Pの音、すなわち無気音のPです)+າ(aの長い母音「アー」)
これらと声調を組み合わせて三種類単語ができてしまいます。
ປາ(魚)
ປ່າ(森)
ປ້າ(おばさん)
全部発音は「パー(無気音)」ですよ。音の高低(声調)だけが違います。
これに加えて
ພາ「パー(有気音Phaa)」で「連れていく」という単語があります。
さらに、末子音
ກ(kの無気音)、 ົ (母音のオの音)、ກ (k)、ດ(単語の最後ではtの音)、 ບ (単語の最後ではpの音)
これらを使い
ກົກ (kok) 「基礎」
ກົດ (kot) 「法律」
ກົບ (kop) 「蛙」
という単語ができます。
ネイティブ・スピーカーに発音してもらうと最初は全部「こっ」にしか聞こえません。末子音というのは単語の最後についている子音のことですが、英語のようにはっきりとは発音せず、k、t、pの口をしたまま音を止めるんです。1年生のときはまったく聞き分けられませんでした。慣れれば違いが少しわかってきますが、今もわからないときは文脈で判断してしまいます。
私たちラオス語学習者にとって、発音が日本語とかけ離れているというのは魅力でもあり、またその複雑さゆえに会話で通じなかったり聞き取れなかったりという難点にもなるんです。(ラオス人と電話するとかなり苦戦します!(笑))
加瀬:私などは声調と聞くとすぐに中国語が浮かんでくるのですが、ラオス語においてもそれは学習者の前に立ち塞がるのですね。個人的には、言語学習一般の最大の難所は発音だと考えています。どれだけの文法・語彙の知識があったとしても、発音が難しいために伝えることができないというのはもどかしいものです。私の専攻語であるスペイン語などは、私のような日本人にとって発音しやすいためあまり問題はないのですが(第1回参照)、他に私が学んでいる言語としては例えばフランス語は発音が難しいと感じていますし、それこそ英語もいつまで経っても発音が良くなっているとは感じられません。ましてラオス語では音声教材がとても少ないということですから、その困難さは想像に難くありません。しかし、だからこそこちらの発音が正確に伝わったときの喜びは格別なのではないでしょうか。
オススメの教材や勉強方法
教材は鈴木玲子著『ニューエクスプレスラオス語』白水社、(2013)が私たちのバイブルです。今は読解の授業では先生から配られた民話のプリントや向こうの小学生が読んでいるという絵本などを使っているので、市販の教材はニューエクスプレス以外は使っていません。辞書はタイから直接注文して船便で取り寄せたり、ラオスの大学で買ったものを使っています。
ラオス語はいわゆるマイナー言語なので、教科書の数はもちろんスペイン語や中国語などとは比べ物にならない少なさです。音声教材もあまりないのでネイティブの先生にすべて頼っています。辞書も英語が媒介となることが多く、普段の予習ではラオス語→英語→日本語と訳しています。でもこの不便さが私たちにラオス語を学ぶことの価値をまた一つ発見させてくれると感じています。(予習や課題がたまってくるととても億劫ですが)
学習法は、どの言語もおなじだと思いますが、調べる、覚える、聞く、音読する、インプットしたものはもう只管使う、という感じです。
最後に
ラオス語の面白さや発音の難しさはまだまだここでは語り尽くせませんが、この記事をきっかけにみなさんが少しでもラオスに興味をもったり、皆さんと言語を学ぶことの楽しさを共有できたら幸いです。拙い内容ですが、最後まで読んでくださってありがとうございました!
ຂອບໃຈຫຼາຍໆ (こーぷちゃいらいらーい)!
(文・加瀬 拓人)