6年ほど前にパナマ共和国に留学していたときの伝手を辿り、日本ではほとんど報道されない地球の裏側にある小国のコロナ情勢を伝えたい。
↑パナマってここです。
【概要】
パナマ | 日本 | |
初確認 | 2020年3月9日 | 2020年1月16日 |
感染者数(7月25日現在) | 42.9万人 | 86.2万人 |
死者数(7月25日現在) | 6,750人 | 15,116人 |
パナマではこれまでに約43万件の新型コロナウイルス感染者が報告されており、死者は6700人を超えている。同国人口はわずか422万人であるため、人口10万人あたりの死亡率は中米7カ国(メキシコを除きグアテマラからパナマまで)の中で最も高くなっている。現在の1日の感染者数は1000人強となっており、第三波真っ只中。
最新事情を聞こうと、留学時代お世話になっていたホストマザーに電話をするが、約束の時間になっても出る気配がない。いつものことなので何度かかけていると1時間後、何食わぬ声で「もしもし〜?」と始まった。出ました、「パナマ時間」。(*1)
私のホストマザーは50代、「おしゃべりで時間にルーズな中南米人」というステレオタイプそのもの。2時間以上続いた彼女のマシンガントークに耐え、ようやく本題をねじ込ませることに成功した。 以下、彼女と、後日留学時代の友人から聞いた話を含めた現地情勢である。(*2)
*1: パナマ時間 (La hora panameña) パナマでは約束した時間の1〜3時間遅れが実際の約束時間ということが暗黙の了解(というより、文化)であるため、人々はその時間のことを「パナマ時間」と呼ぶ。
*2: インタビューが行われたのは7月上旬であったため、一部時系列に齟齬が生じている旨、ご了承いただきたい。
【現在までに取られた対策】
日本ではオリンピック延期が現実的になり、「アベノマスク」が届いた頃、パナマでは生活必需品を買うための外出ですら、性別と身分証の末尾の数字によって制限されていた。(表参照)
例えば、身分証の下1桁が0の女性であれば、月曜、水曜、金曜の朝9時半から11時半の2時間のみ外出が許可される。日曜日の外出は性別問わず禁止され、違反した場合は10万$(*3) 以下の罰金と厳しく取り締まった。国民総背番号制を利用し、厳しく主権制限ができるのは小国の強みかもしれない。
さらにスーパーを含めて酒類の販売が禁止されたため、中南米の人々が愛して止まないパーティーライ フにしばしの別れを告げることとなった。
*3: パナマの正式な通貨名称はバルボア(B.)であるが、B.1=1US$と固定され、基本的に紙幣や硬貨はUS$を使用する。日常生活ではB.と$の両方を用いるが、ここでは便宜的にドル($)で表記していく。また、1$=約110円である。(7月19日現在)
【貧困層支援】
中南米は貧富の格差が世界で最も大きい地域である。昨年のパナマ全土の失業率は18.5%にも上り、 貧困層、失業者支援政策が求められた。政府は、食料・衣料品購入クーポンの配布を行ったが、それと引き換えに、選挙で与党に投票することを約束させるという汚職が横行。コロン県ではこれに怒った市民による暴動が発生した。コロン県は私の留学先だが、パナマの中でも特に貧しい人々が多く住むスラム街である。ちょうどこの頃、日本では国民1人あたり10万円が平等に配られ、私はその使い道に胸を踊らせていた。
↑暴動が起きたコロン県の市街地 (友人提供)
【学校】
現在も全ての教育機関が閉鎖しており、オンライン授業が続いている。首都パナマシティの大学の歯学部に通う友人は、
「病院実習のある生徒は既にワクチン接種を終えている。それなのに実習ができないから卒業が伸びるかもしれなくて不安だよ。」
と話す。
「人生の時間を無駄にしている気分だ。」
と付け足した。「パナマ時間」で生きているパナマ人から「人生の時間の無駄」という言葉を聞いたのはこれが初めてだ。
【ワクチン】
中南米諸国に中国がニヤニヤとワクチン外交を迫る中、パナマはアメリカとの歴史的な結びつきを活かし、ファイザー製のワクチンを受給している。接種自体は今年1月下旬に始まり、6月28日までに少なくとも1回目を接種した割合はパナマが日本を上回っていた。最新の接種率はグラフの通りである。
パナマ運河で働くホストマザーも、職域接種で5月に2回目の接種を終えている。しかし、高齢である彼女のいとこはまだ1回しか接種をしていない。
運河関係者、「上級国民」説。 さらに、かなり富裕層の私の留学時代のクラスメート(22歳)は、誰よりも早く4月に接種完了。
ワクチン接種に関しても、コネと汚職が絡んでいる疑いは拭いきれないが、アメリカとの関係や人口が 少ない利点を活かし、接種はスムーズに進んでいるようだ。
↑大学のワクチン接種の様子 (友人提供)
↑最初「この写真なに?!」と思ったのだが、初めてのワクチンがパナマに到着した時の様子らしい。 国賓級のお出迎え。(友人提供; El Economistaより)
【マスク】
パナマは多くのものをアメリカをはじめとする他国からの輸入に頼っている圧倒的な貿易赤字の国であり、ゆえに非常時は物不足に陥りやすい。パンデミック当初はマスクの輸入量が追いつかず、手に入れ ることが非常に困難だった。私のホストマザーは、近所の女性が経営する雑貨屋でマスクをようやく見つけ、50枚入りを50$で購入したらしい。
「1枚1$!!!考えられる??あのマスクより高い物を彼女から買うことは一生ないわね!!」
とお怒り。現在は50枚入りで大体8$が相場だそうだ。
【最新状況】
現在も複数の県で指定の曜日、時間帯に外出禁止令が出ている。
政府は今年失業者に対し、120$の給付金を配布してきた。「1日120$!パナマ政府やるじゃん!」と感心していたら、週120$でもなく、月120$だった…そしてこの給付金は6月末に終了予定だったが、状況が改善されないため延長が決定。すると政府は、7月からは社会奉仕活動を行うことなどを受給継続の必須条件とした。日本で生活していると、「なぜ社会奉仕活動?」と疑問に思うかもしれないが、その答えは大統領の衝撃発言の中にある。
「社会奉仕を行わせるのは、失業者が国内で軽犯罪を犯しているからだ!」
案の定国民の怒りを買い、パナマ全土でデモが計画され、大統領は即政策変更。
【東京オリンピック2022年説】
東京オリンピックについてパナマではどのような報道がされているのか聞こうと思っていたのだが、ふと、「ねえねえ、東京オリンピックって来年だったっけ?」と言うホストマザー。
日々、感染者数増加と開催の是非、観客の有無など、答えのない問いに悩まされている日本とは異なり、「開催は来年だったかしらね〜〜」程度に楽観視しているパナマが本当に羨ましくなった。
【常夏の国】
私たち日本人はコロナ禍2回目の夏を迎えているが、この地球上にはパナマのような常夏の国も存在していることを忘れてはならない。
「この暑さと湿度の中、マスク生活はもう続けられない!!」 by ホストマザー
日本のように公共交通機関の中や、建物の中は冷房が効いていて天国〜なんてところも限られている。 今日も朝からエアコンのスイッチを入れた私は、この夏がマスク生活最後の夏になることを祈っている。
【最後に】
このパンデミックによって人生が狂ったり、辛い思いをしているのは日本人だけではないということを改めて感じた。この危機を国際社会は一丸となって乗り越えていかなければならない。
↑ショッピングモールでフェイスシールドとマスクを付ける子どもたち(友人提供)
【参考文献】
国本伊代編著, パナマを知るための70章 【第2版】, 赤石書店, 2018年 在パナマ日本国大使館, 「パナマ経済(2020年12月報)」, https://www.panama.emb-japan.go.jp/
itpr_ja/11_000001_00171.html (最終閲覧2021年7月10日)
Hora panameña, LA ESTRELLA DE PANAMÁ, https://www.laestrella.com.pa/opinion/redaccion-digital-la-estrella/130823/hora-panamena (最終閲覧2021年7月21日)
Johns Hopkins University of Medicine Coronavirus Resource Center, “Mortality Analyses”, https://coronavirus.jhu.edu/data/mortality (最終閲覧2021年7月10日)
“Llega a Panamá el primer lote de vacunas para el covid-19”, El Economista, 2021年1月20日, https://www.eleconomista.net/actualidad/Llega-a-Panama-el-primer-lote-de-vacunas-para-el-covid-19-20210120-0017.html (最終閲覧2021年7月25日)
Our World in Data Share of people who received at least one dose of COVID-19 vaccine https://ourworldindata.org/grapher/share-people-vaccinated-covid?country=JPN~PAN (最終閲覧2021年7月25日)
World Meter, “COVID-19 CORONAVIRUS PANDEMIC”, https://www.worldometers.info/ coronavirus/?utm_campaign=homeAdvegas1?%22 (最終閲覧2021年7月25日)
(文・セレナ)
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