クビになったから、屋台をはじめた!~マークとロウディーのサウラサージ 

プロテストの中心ダウンタウンの広場のど真ん中で作業するマークとロウディー*

 開始から4か月がたつレバノンの反政府デモ。その中心会場である首都ベイルートの広場のど真ん中には、スーツ姿で屋台を出しサージ(薄いナンのサンドイッチ)をつくる二人組がいる。マークとロウディーだ。デモは継続しているといっても昨年の開始当初と比べると連日の参加者は少なく、活気も減った。その中でサウラ(革命)を信じてサージを焼き続ける彼らの目指すものはなんだろうか。

サージを焼くマーク

 

失業したから、何もしないよりはよくない?

 彼らが広場に出てきたのは1月27日。両者とも国内の企業で働いていたが、長期化するプロテストと経済状況の悪化、またサウラに参加したことを理由に解雇される。Twitterで出会って親交を深めていた二人は、仕事もないし、何もしないよりはサウラに貢献しよう!それでお金も最低限もらえればいい!というノリで屋台を開始。かつてサージ屋を営んでいたロウディーの父親の友人からもらい受けた機材を引っ張り出し、人生初のサージ屋がはじまった。広場に集まった人々はすぐにこのファンキーな案を気に入り、

”サウラサージ”(ثورة صاج) は瞬く間にプロテスト会場の人気者となった。

クビになったけどあきらめない、ようこそثورة(サウラ=革命)サージへ

中間層の失業

 マークは就職前に大学を卒業、ロウディーは在学中経済的理由で退学している。現在レバノン国内全体の失業率は35%とされ、深刻な問題である。そのうちマークのように大学を修了しているような人材でも職につけず個人で小さなビジネスをはじめたり自営業の店を持ったりする人も少なくない。

修了証書飾っちゃおう!

 そんな失業問題と学歴を皮肉って、初日からサージ焼き機に大学の修了書をはりつけていた。そして毎日の通勤はスーツにネクタイ。いわゆるホワイトカラーから国内の不況で職を失う二人のような人々は大勢おり、サウラにも多く参加しているという。こんな状況を招いた政府と体制に皮肉をぶつけてやる、と言わんばかりである。更に二人は、学位を持ちながら失業した人たちに証明書を持ってくるよう呼びかけそれらを一面に貼るデモンストレーションを実施。キャンバスはプロテストが過激化したことで首相府の前に並べられたコンクリートの壁。自分たちのポジションを守るのに精一杯で国民の生活苦を一向に解決に導かない政府に、100人以上から集まった終了証書が見せつけられた。

首相府前の対プロテストの壁に貼られた学位証明書

 

サージとはそもそも…

 サージはレバノンの安い朝食、軽食であり庶民的な国民食のような存在である。鉄板で薄いクレープのような生地を焼き、中にチーズやタイム、時にチョコレートなどを入れてラップ状にする。これを学位取得者が正装でつくっている、という行為自体が矛盾した現状を表しているのである。

鉄板で焼かれるサージ

 

屋台を続けるそのモチベーション、希望とは…?

 毎日のように歌って踊って抗議が行われていた4か月前とは変わり、以前のように人が集まるような日もあればほとんど誰も広場にいない日もある。そんな中、屋台を出し始めて1か月がたつ。その源は革命を信じる二人の心と、人々の中に燃え続ける希望だった。

人々の消えない熱とサポート

 とりあえずはやってみよう!と屋台を開始した二人。はじめは文字通りサージ焼き機と材料だけをもってデモの中心地に来てみた。すぐさまその様子を撮影しに来た地元のメディアだが、彼らがサージ作りをよく知らないことを悟りその場で作り方を教えはじめた。また雨の多いレバノンの冬。数日後にはテントを買えるようにとお金を置いていった人がいた。SNSや国内外のメディアにもとりあげられはじめた。ベイルートで人気のクラブに招待され入口でサージを焼き、同時にチャリティーを呼びかけたことも。その日の入場料を寄付品にし、経済的な問題を抱えるレバノンの若者を支援するというナイトライフを誇る街をフル活用した。2月末からは地元のNGOと協力して識字率を向上させるための学校を、同じ広場を会場にテントを張り開始した。

ナイトクラブの入り口でサージを振舞う*

続けることで、何かが変わるかも

 いつまで続けるの?と聞くとマークは、”わからないけど、まだしばらくは続けたい。今まで人々の中に政治家に対しての不満がたまっていた。その不満がやっと爆発して、ここまで続いるということはそこに託された人々の期待はかなり大きい”、と。この人々の希望とその先に望む変化を見た二人は、それを引っ張る力になれるものならなってやろう、今回こそは変化が目に見える状態までいってやろう、という気持ちを胸に屋台に立つ。

斬新に、確実にサウラを

 毎日スーツを着て、会社ではなくデモ会場に向かい屋台を営むマークとロウディー。彼らが信じるのは人々の連帯とクリエイティビティ。職を失っても広場でサージを焼き続けるその姿が、人々に希望を与えサウラを続ける力に確実につながっているのではないか。腐敗した体制に対抗するものは、ユーモアと団結心と少しの皮肉。今日もレバノン杉の旗を振り叫ぶ人々のお腹と心を温かく満たす彼らは、サウラの象徴である。

*@thawrasaj(Twitter)より

〈参考〉

The National “Selling saj in a suit and tie: Lebanon’s crumbling middle class fight back”

Al modon “في شوارع الانتفاضة: “ثورة صاج “رفضا الهجرة”

(文・大竹くるみ)

 

About Kurumi Otake 10 Articles
ごちゃごちゃした街と人混みが好き。レバノンに語学留学中、国内史上最大規模の反政府デモ、カルロス・ゴーンの逃亡、国のデフォルトとCOVID-19パンデミックに見舞われたけど、そんなレバノンの荒れたすてきさを伝えたい。