熊本地震から3ヶ月以上が経過した現在、被災地はどのような局面を迎えているのか。熊本出身の筆者が、いま伝えたい思いをのせてレポートします。

熊本地震から3ヶ月が経とうとする7月の半ば、私は故郷の熊本へと帰省した。飛行機から見下ろす熊本の街並みは一面ブルーシートに覆われていて、思わず言葉を失った。これが私の見慣れた故郷だろうか。これが震災というものなのか。東日本大震災を直接的に経験しなかった九州出身の私たちにとって、今回の熊本地震は生まれて初めて災害の恐ろしさを直に感じさせた。復興したもの、もう取り戻せないもの。未だに避難先で暮らす人、いつも通りの日常を取り戻した人。たくさんの現在が今の熊本、九州に溢れている。私は帰省中熊本の各所をめぐり、その姿をこの目に焼き付けてきた。今回の記事では、熊本の現在を少しでも多くみなさんに紹介していけたらと思う。

 

○熊本城

熊本城は安土桃山時代に武将、加藤清正によって建てられた城であり、日本の重要文化財に指定されている。長く熊本のシンボルとしてあり続けてきたが、今回の地震で石垣・櫓・天守閣に甚大な被害を受けてしまい、城内で立ち入りが可能なのは、二の丸広場、加藤清正神社、城彩苑(お土産売り場)だけになっている。二の丸広場から見上げた城は内部が荒れ、瓦が剥げ落ちていたものの、それでも負けずにどっしりと立ち続け熊本の街を見守っていた。県民は熊本城の復旧を今か今かと待ちわびているが、その道のりは長くなるだろう。特別史跡であるため、城の石垣などは旧来の位置に石を戻す必要がある。崩壊状況を記録し、石に番号をつけて仮置きし、台帳を作ってから漸く復旧作業に取りかかれるという。気の遠くなるような作業ではあるが、熊本城のガイドさんは「たとえ何年かかろうと必ず美しい熊本城を取り戻します」と熱く語っていた。

【かつての城下町を彷彿とさせる熊本城のお土産売り場、城彩苑】

 

○益城地方

4月16日の本震の震源地であった熊本県益城町では、今も震災の爪痕が大きく残っている。町中のほとんどの建物に立ち退き勧告の赤紙が貼られ、柱が大きく歪んでいたり一階部分がひしゃげたりしてしまっている。震災を直接体験しなかった私でさえ益城町の景色を見ると強い恐怖と悲しみを覚えるのだから、現地の人たちがこの地域に対して抱く感情は計り知れないものがあるだろうと思った。しかし私がここを訪れた時には、県や多くのボランティアの人の力によって着々と復興が進んでいた。益城町で無事に残ったとある塾では、夏期集中講座に学生を無償で受け入れる取り組みをやっているという。人が出払い、悲しい惨状が残されたままのこの町でも、希望の光は次々に灯り始めている。

 

○宇土市役所

この写真に写っているのは熊本県・宇土市の市役所である。ニュースで目にした人も多いのではないだろうか。建物の4階部分が大きく軋み、当時の揺れの激しさと恐ろしさを物語っている。地震から3ヶ月以上経った今も、市役所は倒壊目前の状態で残されていた。周囲は囲まれ立ち入り禁止になっていたが、かなり近くまで近付くことができた。作業車が数台見受けられたが、この建物の安全な解体にもまだまだ時間がかかりそうだ。宇土市はこの市役所の隣の空き地に仮設の市役所を設置している。市の職員さんたちは万全ではない職場の中でも毎日仕事に取り組んでくれていた。

 

○阿蘇

世界最大級のカルデラ火山の阿蘇山で有名な熊本県阿蘇市も、地震とその後に続いた断続的な大雨で大きな被害を受けている。筆者が阿蘇を訪れた日も大雨の日の翌日で、突然土砂崩れ警報が発令されとても驚いた。阿蘇大橋や阿蘇神社は壊滅的な被害を受け、今も阿蘇市へ向かう道路はいくつか通行止めになっている。しかし、阿蘇は今なお過酷な災害と闘いつつも、かつての美しさを取り戻しつつある。

迂回路のミルクロードから眺め下す阿蘇の盆地の景色はまさに絶景だった。点在する売店では阿蘇のジャージー牛のミルクを使ったソフトクリームや、熱々の焼きトウモロコシを食べることができる。阿蘇の観光地、カドリードミニオンや、ファームランドも続々営業を再開しているようだ。更に黒川温泉や内牧温泉といった熊本の名湯も、大きな被害を受けつつも徐々に回復の兆しを見せつつある。震災の影響で温泉が止まってしまったところもいくつかあったが、今では無事に再び温泉が湧いたり、新しい温泉を掘り当てたりしているという。筆者も黒川温泉を訪れ旅の疲れを癒してきた。温泉街の入り口近くの山が土砂崩れを起こしていて驚いたが、温泉を楽しむのに全く問題なかった。

【情緒あふれる黒川温泉。温泉手形を買うと3つの好きな温泉を選んで入湯できる】

 

他にも熊本には素晴らしい観光地がたくさんある。日本一アトラクションの多い遊園地、三井グリーンランド。2015年に『明治日本の産業革命遺産』の構成資産として世界遺産に登録された万田坑と三角西港。美しい海とキリスト教文化の島、天草。天草の漁港に佇む崎津教会は『長崎の教会群とキリスト教関連遺産』の構成資産としても、世界遺産の暫定リストに掲載中だ。更に、すでに紹介した黒川や内牧に次いで、人吉市や菊池市、玉名市にも素晴らしい温泉がある。名産品のスイカやデコポン、馬刺しに舌鼓をうち、辛子レンコンでちょっと顔をしかめてみるのも一興だ。そして忘れてはならない、くまモンにも熊本の街角で会えるかもしれない。

【活気を取り戻した熊本の街】

 

まだまだ震災の爪痕が残り、多くの人が避難生活を余儀なくされている熊本ではあるが、どの地域もその痛みを乗り越え着実に復興に進みつつあった。夏の休暇を迎える大学生、社会人の皆さんには、どうかこの夏、被災地としてだけではなく観光地としても熊本に目を向けてほしい。観光を通して熊本の魅力を知り、直に楽しむことで沢山の力を熊本に注ぐことができるはずだ。

 

飛行機から見下ろす熊本の景色からブルーシートが消え、一刻も早く健やかな街と大地が取り戻されることを祈って。