「人間として、本当に幸せなのはどういう生き方なんだろう?」格差、貧困、差別、暴力…様々な困難とともに生きる世界の人々を取材するジャーナリストに出会いました。

(見出し写真: NGO「ストリートチルドレンを考える会」メキシコでのスタディツアーで、訪問した施設の子供達と話をする工藤氏 2015年)

 

読者の皆さんはラテンアメリカ地域にどのようなイメージを抱いているだろうか?エキゾチック、陽気、治安が悪い… しかし、ラテンアメリカ地域に関わらず、私たちは地域を本当に「知って」いるだろうか? ラテンアメリカ地域、フィリピンなどの国々で、人々が暮らす現状を対象に根気強く取材を続け、文章として発信を続ける一人の外大OGがいる。外国語学部スペイン語専攻OGでありジャーナリストの工藤律子氏に、ご自身の活動と学生生活についてインタビューした。

 

聞き手:高橋茜 (高) 国際社会学部ラテンアメリカ地域専攻。

 

話し手:工藤律子氏 (工) ジャーナリスト。「ストリートチルドレンを考える会」共同代表。東京外国語大学外国語学部スペイン語専攻卒。毎年、マニラやメキシコシティへのスタディツアーを主催している。中米ホンジュラスで暗躍するギャングと社会復帰を目指す人々の実態を描いた、開高健ノンフィクション賞受賞作「マラス」(集英社)ほか、世界中の貧困とともに暮らす人々に密着した著書多数。

高:まず、外大を目指そうと思ったきっかけを教えてください。

工:高校生の時に米国に留学した時に、一番仲良くしてくれた人たちは南米の子たちだったのね。(米国にいる理由は)その子の親が政権に反対していたから、政府に弾圧されて、亡命してきたっていう。ノリと人懐っこさで仲良くなったけど、そんな背景を持っているなんて想像もつかなかった。その時はチリもボリビアも軍事政権の時代ね。「クーデター」とか、「軍政」とか、田舎の高校生には現実味がなかった。だから、どういうところで育ったんだろう?という興味が湧いた。スペイン語だからというよりも、そこに行きたい!という気持ちが強かった。当時はスペイン語学科は少なかったから、日本とメキシコの交換留学を行なっていた外大にしよう!っていう感じ。

 

高:それで、東京外語に、ということですね。

工:そうだね、もしスペイン語に落ちたらアラビア語に行こうと思ってたりした。情勢が動いていて面白そう、と思った。

高:なるほど。では、学部・院生時代に苦労したことや、辛かったことについての思い出を聞かせてください。

工:学部時代は苦しいと思うことはなかったけれど、宿題の量は多かった!下宿の部屋で同じスペイン語専攻の女の子とずっと勉強してた。フィールドワークがしたいと思って大学院に行ったから、理論の勉強は大変だったね。今思えば、無駄ではなかったけれど。

 

高:では、ジャーナリストになるきっかけについても教えてください。

工:なりたかったわけではない(笑) なってしまった、という感じ。

高:「なってしまった」とは?

 

工: 自分の興味のある分野を調査していて、例えばメキシコシティのスラムで暮らす人々の生き方とか考え方に魅力を感じたし、彼らがどんなに大変な状況にあっても改善していこうとする姿勢は、日本人にはないな、と思ったのね。安定とかを求めて、お金を稼いでいるけど、人間として本当に生きていて幸せなのはどっちなんだろう?って。それが伝えたくても、論文書いたってそんなにたくさんの人が読んでくれるわけじゃないし、論文のためだけにスラムの人々と接していたわけじゃないし。もともと文章を書くのは好きだったけど、ジャーナリズムは手段だね。職業の名前が何であれ、興味があることを、たくさんの人に自分の言葉で伝えたかった。

(外大院生時代、メキシコ野党民主革命党PRDでスラム住民運動を率いるスペルバリオ氏にインタビューする工藤氏)

 

高:インタビュー取材の上で、気をつけていることはありますか?

工:聞きたいことは全部、なるべくはっきり聞く。最初の頃は、コレ聞いちゃっていいのかな?とか変に心配してしまうことがあったけど、勝手な思い込みで聞かないように避けると、向こうもやんわりと濁した答えをしてきたりする。あとは、その人が普段いる場所で、自然体でインタビューを受けてもらうということかな。緊張しちゃうと、かしこまってしまうし。話したいことを遮らずに話してもらうのも大事。

高:記事にする際に気をつけていることも教えてください。

工:やっぱり、どこまで個人情報を出していいかはすごく気を配る。「マラス」に描かれているように、ギャングから逃れてきた子なんていうのは、顔や本名を出すことが危険につながる可能性があるから、保護施設の責任者にも確認を取りながら書いていきます。

 

高:ありがとうございます。続いて、外大生へのメッセージをお願いします。

工: まず、違う世界に自分から行って欲しい。特に今は第三世界と呼ばれる地域に留学したり、訪れたりする日本の若い人が減ってるでしょう。「外国語」と名の付く大学に入ったんだから、外国語とか外国に少なからず興味がある人たちなわけだし、行かないとダメだよ。例えば、今世界はどんどん排他的になっているでしょう。

高:移民問題や宗教の違いで、人々が争っているケースですね。

工:そうそう。そういうのって、相手を知らないから起こっているんだよね。移民の問題にせよ、特定の宗教を信じる人を排斥する風潮にせよ。外大生には、実際に現地に行って、自分の目で見て判断してほしい。それができる人とできない人がいるっていうこともわかってほしい。今の若い人では、貧困家庭に生まれると海外どころか進学すら危うい状況は少なくないから、できる状況にあるあなたたちが行かなきゃ!

高:では、工藤さんが毎年行なっているスタディツアーについても少しお話をお聞かせください。

工:まず、自分で行く旅行とスタディーツアーの違いって、視点の違いだと思うんです。それに、うちの会のツアーはちょっと他のところのとは毛色が違うかな、とも思います。

高:私も会のメキシコツアーに参加しましたが、「何かをしてあげる」というようなツアーではないんですよね。こちらが与えるだけのツアーではない。私は初めて行ったメキシコで、圧倒されたのを覚えています。無力感というか。

工:そうだね。ストリートに子供が溢れている、という問題だけじゃなくて、その背景にある貧困やシングルマザーの存在などを知ることができると思う。このツアーは本当にその第一歩目のような気がします。例えば毎回、「もっと長く施設に滞在したかった」って言ってくれる参加者の人がいるけれど、そう思うなら、次は実際に自分で行ってほしい。ツアーは、あくまでそのきっかけになれば、と思っています。

高:私も、メキシコツアーで感じた圧倒的な無力感がなければ、自分でメキシコシティの施設でボランティアとして働こうと考えなかったと思います。

工:ボランティアも、どんな形の支援も、与えられてやるものではないんだよね。自分が何をしたいのか、自分は一体どこへ行くのか、後輩のみんなにはそれをしっかり見極めて毎日を過ごして行ってほしいなと思います。

高:ありがとうございます。

 

工藤氏が共同代表を務める「ストリートチルドレンを考える会」は、フィリピン・マニラのストリートチルドレンを訪ねる旅の参加者を現在募集しています。他のスタディツアーとは一味違う内容、そして案内人である工藤氏の魅力が感じられるツアーです。興味のある方は、ストリートチルドレンを考える会HP (http://children-fn.com)までぜひお早めにお問い合わせください!

 

(聞き手・高橋 茜)