「あー、アメーバだね。薬打ちましょう。」いわゆる”旅行者病”ではなかった、少し深刻な病気の話。

読者の皆さんは、アメーバと聞いて何を連想するだろうか。今回のアメーバは、ブログでも釣りゲームでもない。人体に寄生し最終的には肝臓に至ってしまうこともある病気を引き起こす原生生物だ。今回の記事は、メキシコでアメーバ赤痢に罹った筆者の体験談をもとに、いつ、どんな症状が出たらアメーバ赤痢を疑い病院にかかるべきか、そして感染症対策一般を伝授したい。非常に対象が限られた記事である。需要はないことを祈りたい。しかし、この記事で今激痛に苦しむ人が減ることを願って書くことにする。なお、筆者は医療従事者ではないため、最終的な病名判断等には専門家を受診していただきたい。

 

 

まず、アメーバ赤痢は世界中どこでも感染しうる病気だ。食べ物、水などを通して赤痢アメーバが体の中に入ることで感染する。生水や屋台の食べ物などは高リスクといえる。症状は下痢、腹痛などで、「途上国行ったら腹壊した」状態に非常に近い。しかし何点か気をつけて観察すれば違いが見えてくる。ただお腹を壊しただけなら、病院に行かずとも治ることが多いし、むしろ身体を慣らしてしまった方がいい、という人もいる。しかしアメーバ赤痢の場合は全く事情が異なってくる。慣れたかなと思う頃には、アメーバは肝臓に到達しているかもしれないのである。筆者の場合はメキシコシティに住み、多少なりとも慣れた状態ではあったが感染してしまった。長期滞在や在住者の方もぜひ気をつけていただきたい。

 

 

1.高熱

なんか熱っぽいなあ、と思いつつも放っておいていた筆者は受診時の体温に驚いた。熱は38度。メキシコって暑いよな〜なんてのんきにしていたら、それは太陽の熱ではなく自分の体温だったのである。この数字を見た瞬間から、もしかしたら大変なものに罹ったのかもしれない、という考えがよぎり始める。まあでもちょっと風邪引いただけかも、1度くらい誤差あるかも、という考えは捨てていなかった。しかし、高熱がある時点で何かの病気にかかっているのは確かなので病院に急いでほしい。

 

 

2.よじれるタイプの腹痛

旅行者病と呼ばれるものとの決定的な違いはここにある。お腹を下すだけなら、人にもよるが「お腹が痛いなあ」という感覚があるのが普通だ。しかしアメーバ赤痢の場合は内臓を雑巾のように絞られているような激痛がある。お腹が痛いなんてものではない。しかも、症状が出る初日から全力で痛めつけにかかってくる。じわじわと痛くなる旅行者病とはかなり異なる。筆者の場合は、動くことすらできないほどの激痛であった。このような痛みがあるときは病院になど行きたくもなくなるのだが、最後の力を振り絞って受診していただきたい。

 

 

3.水を飲む時の痛み

ここまで来ると信じがたいかもしれないが、筆者の場合は水を一口飲むだけで激痛が走る、という症状があった。しかし脱水症状を防ぐために水や生理食塩水を少しずつすすりながら十分な水分を摂取していただきたい。もっとも、筆者は受診後に短時間入院を余儀なくされ、点滴によって水分補給に成功したが、その状態になる前に水分を十分にとっていただきたい。点滴はつらいものである。

 

 

このような症状に加えて、下血や吐き気などがある場合は他の感染症も併発している可能性がある。バクテリアとアメーバが戦って両成敗、というような上手いことは起こらず症状が悪化するだけなので、こちらも早めに対処しておくことが大切である。

 

ここからは、アメーバ赤痢の他にも感染症一般の発症を防ぐためのできる限りの対策を挙げる。

 

 

1.生水と氷を避ける

言われなくてもわかってるよ!と思われるかもしれない。しかし、誰にでも気が抜けてしまう瞬間はある。知人の家で食事をする時、自宅で料理をする時などもレストランで食事をする時と同じように気を配る必要がある。また、ボトルウォーターを頼んだらペットボトルに入った水道水が出て来る、というような話は珍しくない。ラベルやキャップの栓を確認するのが重要である。

 

 

2.屋台を避ける
筆者の自宅から職場まで屋台が一体いくつあるだろうか?数えてみたことはないが、優に30は超えるだろう。その中のいくつかは肉の塊をぐるぐる回しながら炙っていたり、フルーツをさくさくと切って絞っていたりと、大変うまそうなのである。毎日10ペソ(60円くらい)の生搾りオレンジジュースを飲み、3つで21ペソ(120円くらい)のタコスを食べていたのはそのせいである。屋台はその国独特の食べ物が味わえる絶好の場所である。安い、早い、美味いの三拍子が揃っていたとしても、衛生環境や自分の体調を考慮しながら、少しずつ試してほしい。

 

 

3.食べすぎない/飲みすぎない

もはや体調管理全般の話ではあるが、無理をしすぎないというのはどんな時でも大事なことだ。筆者は発症日前日にメスカルというハードリカーを呷っていた。胃腸を痛めない程度に飲食を楽しむのが一番である。ただ、メキシコを代表する美酒メスカルの名誉のために記しておくと、胃を荒らさない飲み方がある。塩をまぶしたオレンジをかじりながら飲むというものだ。(1杯目はきちんと従った。)それぞれの国や地域に伝わる飲み方や食べ方に従い、楽しむ程度に味わうことを忘れないようにしたい。

 

 

食べ物や飲み物は、ほとんどの人にとって旅や在留期間の中で最も楽しみなことのうちの一つだろう。しっかり楽しむためにも、感染症や体調不良を招く要素をなるべく省き、ぜひその土地ならではの美食を味わっていただきたいと思う。そして前述のような症状が現れたら、アメーバ赤痢を疑い一刻も早く医療機関を受診することを強くお勧めする。

 

 

 

(文:高橋 茜) ※読者寄稿