ドイツ語科4年 野口大樹さん ハンブルク大学に派遣留学中
ハンブルク大学での留学生活は大忙しだ。外大で水泳部の主将を務めた野口さんは、なんとドイツでも水泳のチームに属しハードな練習に勤しんでいる。更に暇を見つけてはヨーロッパ各地を飛び回り、ノルウェーでオーロラを見たりスペインでヒヤリ体験をしたりと忙しい日々。今月末にはヨーロッパを越えてモロッコへの旅行を計画しているとか。更に留学中に本格的に写真を始めるなど、その興味分野は多岐にわたる。その傍ら勉学や読書にも励む中で、ある運命の本と巡り合った。
『貞観政要』作・呉兢 訳・守屋洋
唐の太宗の政治に関する問答を記録した本。帝王学の教科書としても有名。太宗とその臣下たちとの政治問答を通して、太宗が気付いた平和な治世の要諦が綴られている留学前に外語祭の料理店や部活動を通してリーダーの立場を経験した。留学先でありあまる時間の中、ふと興味を抱いたのは人の心を掴んで導く学問<帝王学>だったそう。手に取った唐代の問答書「貞観政要」に書かれていた言葉が心を揺さぶった。
「君の明らかなる所以の者は、兼聴すればなり(訳:優れた君主というのは臣下の進言に広く耳を傾けるものだ)
優れたリーダーに必要なのはカリスマ性や実務能力ではなく、真摯に仲間に耳を傾けそれを素直に実行できる力だと再確認した野口さんは、今までの自分のリーダーとしての在り方を肯定し、そして更により良き指導者になることを目指して活動を始めた。更にドイツの指導者達に興味・研究対象を広げたり、ボランティア・インターンシップなどのアクティビティを行う計画を立てたりと、フットワークは軽い。
こうした読書体験は、留学先だったからこそ更に意義深いものになったとも野口さんは語った。半年以上の長期留学では、留学前に描いた青写真とは違った景色が広がっていることも少なくない。留学経験者が往々にして語るのは、思いのほか時間が余ってしまうということだ。今まで自分を構成してきた世界から切り離され、未知の世界で宙ぶらりんになる。真っ先に痛切に見えてくるのは自分の心、そして過去と未来だ。そんな時、本はいつでもどこでも手を伸ばしやすい場所にある。そして心にじっと染み込む言葉は、異国の風を浴びながら、いつもより流れが遅く感じる時の中でこそ見つかるのかもしれない。
また、留学先だからこそ出来ることと言えば現地の言葉に沢山触れることではないだろうか。野口さんにいくつか質問してみた。
Q. 語学力はどのくらいで身についた?
「2~3カ月あれば日常会話は十分でした。そこから先の壁を越えるには、単語力の増強や複雑な文構造の理解が不可欠だと思います。やっぱりカギとなるのはその国の言語で読んだ読書量かな。留学先ではその国の本は入手が容易だから大いにチャンスだし、会話だけじゃなくて、本からでも日本との価値観の違いを洗い出すことができると思います。
Q. 本や読書材料はどうやって準備する?
「書店はもちろん、大学図書館に入り浸るのはおすすめ。他にも日本語が恋しくなった時には、友人の助けを借りて旅行ついでに本を持ってきてもらうことも。実は『貞観政要』も友達に頼んだんですよ。近頃痛切に必要だと感じるのはkindle。各国の言語はもちろん日本語も容易に入手でき、マーカーを引いたり単語の意味を書き込めたりして勉強にももってこいです。」
Q. ドイツ語のおすすめの本を教えてください!
「なんといってもヘルマン・ヘッセの『車輪の下』。作家兼、詩人ならではの味わい深い文章がドイツ語原文で読むことで更に伝わってきて良かったです。」
インパクトでも読みやすさでも抜群の『車輪の下』。20世紀のドイツが誇る文学者、ヘルマンヘッセの名作である。青春の儚さと勉学の意義を問いただすこの作品を留学中に読むとは何てお強い。
帰国後は水泳部の練習に戻る傍ら、卒業論文の執筆にも力を注いでいくそうだ。テーマはもちろん留学中に見つけた「帝王学」。みんなの先頭に立ちたい、そんな思いはなかなか言い出しにくいものかもしれない。それでも人をより良く導くあり方を胸を張って考える姿は、未来への希望に満ち溢れている。
あなたも遠い異国の地で一冊、いかがですか?
(文・濱本夏綺)(写真・野口大樹さん)
野口さんの素敵な写真が気になったらぜひ彼のインスタグラムへ!