英語、スペイン語、サンスクリット語に似ている?時制の概念がない?知られざるフィリピン語の魅力と難しさ

【第2回】フィリピン語(タガログ語)(Pilipino, Tagalog)
ゲスト:フィリピン語科 阿久津貴生さん
1. 自己紹介
Magandang hapon!

東京外国語大学2回生の阿久津貴生です。フィリピン語・東南アジア第1地域を専攻としています。また、現在は中国語の学習も行っています。というのも、例えば今フィリピンをはじめとする東南アジアの国々と中国との間に近隣のスプラトリー諸島の帰属を巡る対立が存在しているように、昨今のアジア情勢を理解する上で中国語の必要性を感じたからです。

加えて、私はフェア・トレードに興味があり、コーヒー豆の輸入・販売を手掛けるFemme Caféというサークルに所属しています。そして、そこで得たフェア・トレードの方法論を、フィリピンなどでも応用できないかを模索しています。

私自身は所属していないので紹介のみさせていただきますが、東京外国語大学には他大では滅多に見ることのできないフィリピン舞踊部もあります。フィリピンの文化に舞踊を通じて触れることができます。

加瀬:貴生さん、よろしくお願いします。

2. なぜフィリピン語を専攻したのか
フィリピンは、地理的に日本に近く、日本の友好国(同盟国)の1つであることはご存じでしょう。その歴史的背景から、アメリカとも深い関係にあることがわかります。そのため、フィリピンについて学んでいくと、同時に日米関係についても理解が深まるのではないかという考えがありました。

また、フィリピンでは英語が公用語なので、これまで培ってきた英語力も役に立つであろうとも考えました。

そして、フランス語やドイツ語をはじめとするいわゆるメジャー言語は、ほとんどの大学で第二外国語として学ぶことができますが、フィリピン語は東京外国語大学や大阪大学外国語学部など一部の大学に専攻語として設置されているのみで、いわゆるマイナー言語、学習者の少ない言語としての扱いを受けています。せっかく東京外国語大学で新しく外国語を学ぶのであれば、むしろそのような言語を学びたいと考えました。

フィリピンは他の東南アジア諸国と同様にこれから発展していくことが大いに期待される国の1つです。公用語として英語を話せるフィリピン人も多く、世界各地で彼らに会うことができます。そうした点も魅力的でした。

3. フィリピン語の魅力などについて語る
フィリピン語(以下、タガログ語)は、原則的に1文字1音で、ほぼローマ字通りに発音されます。タガログ語のアルファベットはabakadaと呼ばれ、5つの母音と15の子音、アルファベットでは表されない1つの声門閉鎖音の合計21音から成り立っています。その中でも、ngは1文字として扱い、発音としては「が」を鼻にかけたようなものとなります。人によってはこの発音が慣れるまで大変に感じるかもしれません。語彙はその歴史的背景から英語、スペイン語そしてサンスクリット語からの借用語が多いです。例えば、時間を表現する際はスペイン語の数字を用います。

例:曜日(日曜日から):
Linggo Lunes Martes Miyerkoles Huwebes Biyernes Sabado
数字(1〜3):Uno Dos Tores
動詞:maglaba(洗う), magplantsa(アイロンをかける)
magbiyahe(旅をする)

(参考)スペイン語との比較
曜日(日曜日から): Domingo Lunes Martes Miércoles Jueves Viernes Sábado
数字 (1〜3):Uno Dos Tres
動詞:laver(洗う), planchar(アイロンをかける), viajar(旅をする)

加瀬:綴り・発音ともによく似ていますね。

基本文の語順がVSOであり、英語をはじめとした諸言語とは大きく異なっています。世界でも稀な言語的特徴ですね

例:Laging kumakain ako ng mangga.
いつも 食べている 私は を マンゴー

上に挙げた例文では、「いつも」という意味の単語lagiにngという接尾辞がついていますが、これはリンカーと呼ばれます。リンカーにはnaとngの2つがあり、文と文または単語と単語をつなぐために用いられます。

4. フィリピン語を学ぶ上では、ここが難しい!
なんといっても動詞が難しいです。フィリピン語の動詞は、動作の意味を備えた語根・語幹に、フォーカスやモード、アスペクトといった概念を示す接辞を組み合わせてできています。

フォーカスとは、英語における「態」に相当するものであり、能動態や受動態などの情報を伝達します。どこに焦点を当てるかによって用いるべき動詞も変わってきます。

また、フィリピン語には現在や過去、未来といった時制という概念が存在しません。代わりに既開始および未開始という概念に基づき変化させるアスペクトを用いるわけです。最も基本的なMag-動詞の例を以下に示します。

例:不定相Magbasa
完了相Nagbasa
継続相Nagbabasa
未然相Magbabasa

この他にも-um-、in、i-、-anなど多くの動詞があります。

モードについてはここでは省略しますが、要するに動詞に多くの情報が詰め込まれているがゆえに、動詞の学習が最も難しくかつ重要であるというわけです。

上記の例で言えば、まずMag-動詞を覚え、その後それがどの-um-動詞やin動詞といった他の動詞と対応するのかをも覚える必要があります。つまり、ある動詞に対応する動詞があらかじめ決まっているため、まずは動詞ごとに覚えて、次にそれらと他の動詞との組み合わせをも覚える必要があるのです。

私もフィリピン語を学習して2年目になりますが、授業のたびに新たな動詞が登場するので、その用法を覚えるのは大変です。とりわけ、動詞の組み合わせを覚えることが難しいと思います。ただ、こうした文法の難しさが学習に刺激をもたらしていることもまた事実です。

加瀬:確かに、概要を聞いただけで複雑な動詞体系をもっていることがよくわかりますね。この点に関してはスペイン語というよりはサンスクリット語に近いような感じがしました。文法が複雑なだけに発音が比較的容易であることは救い(?)ですね。

5. オススメの教材や学習法
・並木香奈美ほか『はじめてのフィリピン語』明日香出版社、2010年。
外大のネイティブ講師であるロセル先生の音声が付属CDに吹き込まれており、いつでも授業を受けているかのように楽しく学習することができます。会話表現を中心に、文法や語彙も扱っています。

・山下美知子ほか『フィリピノ語基本単語2000』語研、1989年。
著者の山下先生は外大のフィリピン語テキストの作成者であり、またリース先生はネイティブ講師として外大の授業を担当しています。場面ごとによく使われる単語が分類されており、個人的には非常に覚えやすく気に入っています。

6. 最後に
いかがでしょうか。フィリピン語のすべてをこの場で語ることはもちろんできませんが、この言語のユニークな特徴について最低限のことは話すことができたと思っています。興味を持った方は、この機会にぜひフィリピン語を学んでみてください。

加瀬:今回はどうもありがとうございました。

(文・加瀬 拓人)

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