アルプスの麓グルノーブルでの2週間で見つけたフランス事情

 2020年3月1日、大学1年目の終わり、フランス・リヨンのサンテグジュペリ空港に降り立ち、バスに1時間ほど揺られるとフランス南西部にあるグルノーブルに到着。

アルプスの麓に位置するグルノーブルは、冬のスポーツ、そしておいしい水が飲める都市としても有名。そんな素敵な街での素敵な1か月間が始まろうとしていた…

といいたいところだが、日付からお察しのとおり当時は世界が未知のウイルスに襲われ始めていた頃。COVID-19の驚異の感染力を前に2週間強での帰国を強いられることになってしまった。

 とは言ってもやはり、初めてのヨーロッパ!初めてのフランス!ということで、とても刺激的な毎日を送ることができた。今日は、グルノーブルでの約二週間の中で発見したフランス社会やフランス人文化の諸事情のうち3つのことについてお話ししたいと思う。

1.フランスの人はとにかくよく喋る

 ついて間もないころ、シャンプーを現地で調達する必要があったため初めての外出は近所の薬局(Pharmacie)へ。日本でいうと駅の中のドラッグストア(より少し小さかったかな?)くらいの規模の薬局の中で、日本でシャンプーを買うのと同じように棚から探していると、奥のカウンターから店員さんが前のお客さんの対応を終えて、「次はだれ?」みたいなことを店の中に向けて言った。僕の近くにいた別のお客さんが「行きなよ」みたいなジェスチャーを僕に向けてしてきたので、「え、まだ商品見つけてない…」と思いながら困惑していると、店員さんが”Venez, venez(おいで)”と僕を手招きしたのでとまどいながらもカウンターへ。「何が欲しいの?」「どんなシャンプー?香り付き?普通の?」というような質問をされてそれに答えると、店員さんが奥からごく普通のシャンプーを持ってきてくれた。どうやらこれがフランス流のようで、少なくとも薬局では、店員との会話をすることによって探している商品を見つけるらしい。

 他にも日常のいろいろな場面でフランス人には会話が多い。例えば、トラム(路面電車)の停車駅のベンチでは、20代くらいの喫煙者の女性と少し立つのが困難そうな年配の男性という、少なくとも日本社会だったら偏見をもって交わることのなさそうな二人(おそらく知り合いではない)がおもむろに楽しそうに会話を始めたので、その垣根の低さに驚くと同時になんだかすごくいい気持ちになった。スーパーのレジでもお客さんと店員さんがよく会話をしていたしいつも見ていて楽しそうだった。僕は積極的に会話をしたわけではないが、会計を終えて立ち去るときには“Bonne journée !(良い一日を)”と声をかけてくれて、まあそれがフランス人の挨拶なのだが、これも機械的な感じが一切せずまたもやすごくいい気持ちになった。ホストマザーも街やトラムの中で人と喋っていたし、とにかくフランス人はよく喋るのだと思う。

2.デモやストライキは日常茶飯事!

 授業が始まって二日目の朝、20分くらい?遅れてトラムが来た。大学には遅刻して到着したが、他の学生もほとんどまだ来ていなかった。先生の話によると、その日はデモがあったらしく交通機関が止まっていたのだという。僕の使うトラムは運よくすぐに動き出したが、他の友達には大学まで歩いてきたという人もいた。日本だったら絶対にデモよりも交通機関の正常運行の方が大事だとされているだろうから、そこに大きな違いを感じたし、フランスの人々はそれだけ自分たちの政治的メッセージを伝えようと必死なんだろうなとも感じた。ちなみに写真はその日の大学内で撮った写真。本当の意味は分からないがおそらくデモと関係あるのだと思っている。

 あとは、週末に近くのバスティーユ山に上って街を見下ろした時にもデモの行列が動いているのが見えた。その日は確か3月8日国際女性デーだったのでおそらく女性の権利向上を求めるデモだったのだろうと思う。地方都市グルノーブルの地でさえこれほど活発に運動が行われているのだからすごいものだ。メーデーもそうだが、人々の権利のための記念日がありその日に権利のために運動を起こすことは素敵なことだと感じたし、とても重要なことだと思う。

3.パンとチーズの国フランス

 フランスでの生活で最も感動的だったといっても過言ではないのがやはりパンとチーズだろう。毎日朝ごはんにはバゲットとチーズを食べ、昼食には学校のカフェテリアでチーズやハムや野菜を挟んだバゲットサンドを食べることができたのは、それはもう本当に幸せだった。

 フランスがパンとチーズの国であることは街を歩いているだけでもわかる。というのも、日本でいうコンビニと同じくらいの間隔(それよりも多いかも)で街中のいたるところにBoulangerie(パン屋)があるし、フランス人はよくポケットに紙袋に入ったバゲットをそのまま入れて歩いていた。フランスと日本のパン屋の違うところは、フランスでは総菜パンのようなものはなくシンプルなものが多いところと、パンをやたらビニールにくるんだりしないところだ。パン屋ほどではないがFromagerie(チーズ屋)という店もある。店舗の中には入ったことはないがいかにも強そうなチーズがガラス越しに見えたのを覚えている。写真のようにMarché(市場)やスーパーにもチーズは豊富な種類が大量においてあり、それはもう絶景だった。そしてパンもチーズも安くておいしい!例えばバゲットは日本のちゃんとしたパン屋では300円近くするが、フランスでは1ユーロ(120円くらい)以下で買うことができるし、チーズに関しては直径15センチほどのホールのカマンベールがなんと1.5ユーロほどで手に入るのだ!日本では高くてなかなか手が出ないので頻繁に買ってはひとりでむさぼっていたのはいい思い出だ。

 2週間で悲しい終わりを迎えたグルノーブルでの生活だったが、それでもこの3つのテーマだけでも語りつくせないくらいの感動を経験することができたし、コロナによる緊急帰国などを経て海外でもたくましく生きられるようにはなったかな…と今となっては振り返ることができる、そんないろんな意味で充実した留学でした!

(文・中瀬 大生)