「三度目の正直」ということわざは、誰もが一度は聞いたことがあるだろう。
故事ことわざ辞典によれば、【三度目の正直とは、物事が一度目と二度目はあてにならないが、三度目なら確実であるということ】あるいは【二度の失敗の後に成功すること】を意味する。
一度や二度失敗を経験した人間が「大丈夫、三度目の正直!」と自分を鼓舞し、気持ちを切り替えて、また挑戦する。
他人からこのように励まされて、次も頑張ろうと思う人もいるだろう。
しかし、果たして今まで何人の人が「三度目の正直」で、無事に目標を達成できただろうか。
前置きが長くなったが、今月の月替わりエッセイのテーマは「壁」。
ここでは私が乗り越えた「壁」の話をしようと思う。
簡潔にまとめると、「英検1級を、7回目の受験にして合格した」話だ。
外大に通っていると、英語のレベルが高い、英語が得意な学生をたくさん見かける。
時には、TOEICのスコアがどうだったかを笑顔で話す女子同士の会話も聞こえる。
800点を余裕で超えていない限りこんな話はもちかけられない。なんて高尚なマウントの光景だろうか。
そして時に、「英検1級持ってる?」と聞かれることも。
まず「英検何級持ってる?」という話ではない。
2級以下は持っていて当然どころか、そもそもその級でマウントは取ろうなんてもってのほかなのだ。
外大生で最も取得率が多いのは準1級で、おそらく二番目に多いのは1級である。
外大は、他の大学の学生からは化け物扱いされる英語の秀才が集まる恐ろしい大学だ。
本題に戻ろう。私は「7回目にして合格した」と先に書いた。つまり6回不合格を経験している。
ちなみに6回とも筆記試験の時点で落ちて、7回目にして初めて二次試験を受ける権利を得られたのだ。
初めて受験したのは中学3年生の時で、合格したのはついこの間の2月。
5年間ずっと、参考書は過去問題集とキクタンを活用して、たまにBBC Newsのラジオを聴くという形で勉強していた。落ちた時も、受かった時も、この勉強法は変わらなかったし、今更変えようという気も起きなかった。
この経験を話すと、周りの色々な反応が見られて面白い。
「そこまで落ちないと受からないほどお前は頭が悪いのか」と呆れる人。
「よく7回も諦めずに頑張ったね」と変な感動を覚える人。
「どんだけ英検に投資してんの!」と笑い話に変える人。
この記事を読んでいる人にも、当てはまる反応があったのではないだろうか。
1級になかなか受からなくて落ち込んでいる人で、7回以上受験を経験した人はなかなか見られない気がする。
「帰国子女なのに」「外大生なのに」と馬鹿にされることもあったが、英検1級という壁を七度目の正直で乗り越えたという経験には、もはや恥ずかしさを通り越して、清々しさを覚える。
自分の誇れる武勇伝の一つして、ストックしておこうと思う。
三度目の正直なんて、いったい何の根拠があって、作られたのだろうか。
自分も含め、「きっと三度目には受かる、成功する」と信じて、裏切られた人の方が圧倒的に多いのが現実だ。
そこで嫌気がさして諦めるか、目標を達成できるまで挑み続けるかは、人によると思うが。
(文・安藤 真季)