新型コロナウイルスや著名な芸能人の死など、暗くて悲しいニュースが多かった2020年も、早いもので残り一か月を切った。
クリスマスまで二週間ほど。
今年は大人数で集まるのが厳しい状況であるが、家でのんびりクリスマスを堪能するのも悪くない。
クリスマスの食事はチキンやケーキを注文したり、一から自分で作ったり、人によって様々である。
ところで、私はクリスマスと聞くと真っ先に頭に浮かぶお菓子がある。
焼き菓子の一種で、値段の高いお上品なスイーツと比べて、食べ応えがあるものだ。
イギリスのクリスマスに欠かせない、ミンスパイである。
現地では、こんなに可愛らしい星型のものというよりかは、もっとシンプルな見た目のものが売られている。
「あれ、シュトーレンじゃないの?」と思った読者が多かったのではないだろうか。
スイーツと呼ぶには食べ応えがあって、洋酒とドライフルーツの芳醇な香りが食欲をそそるシュトーレンも、クリスマスを代表するドイツ発祥の焼き菓子である。
筆者が通っていたイギリスの現地校は、プロテスタントの小学校で、毎年クリスマスは教会に行って讃美歌を歌った後、先生の手作りミンスパイをみんなで食べたものだ。
イギリス人にとってミンスパイは、まさに冬の風物詩。
スーパーでもパーティーの会場でも、はたまた文学作品にも登場する伝統的なお菓子である。
「サンタさんの大好物だから」と、わざわざ手作りする家庭も多い。
シュトーレンと比べると、日本ではあまり認知されていないこのミンスパイ。
中には、たっぷりのスパイス・洋酒・バターに漬けたドライフルーツとナッツがぎっしり。
いわゆる「ミンスミート」が、手のひらサイズのパイの中に詰め込まれている。
なぜ「ミンスミート」なのかは、ミンスパイの歴史を辿ると分かる。
起源は13世紀に、遠征していた十字軍が中東から英国に持ち帰ったパイ料理である。
当時のミンスパイの中身は肉・果物・スパイスで、貴重な食材が使われていたことから、クリスマスやイースターなど特別の日にのみいただくごちそうとして知られていた。
クリスマスに食べるのはカトリックの慣習とされていたため、ピューリタン革命に伴い、ミンスパイは一時的に排除されたが、ヴィクトリア朝時代に、肉ではなくドライフルーツやナッツを使ったものがリバイバルした。
当時の名残から、現代でもパイのフィリングは「ミンスミート」と呼ばれている。
正直、小学生の子どもが食べるには大人びた味だったと思う。
最後に食べたのは小学校低学年だったため、私は「ミンスパイ=さほど美味しくない」という認識が10年以上経った今でも抜けていない。
今食べたら、果たして美味しいと感じるのだろうか。
クリスマスに食べる伝統的なお菓子としてイギリス人に愛され続けるミンスパイ。
コロナの影響で、街中の状況は今までと変わってしまったかもしれないが、この伝統が途絶えることはない。
今年のクリスマスも、何事もなかったかのように英国紳士たちは紅茶を片手に、ミンスパイを嗜むだろう。
(文・安藤 真季)
見出し画像:TESCO Homemade mince pies
参考文献:ぱんたれい(2017/3/30)