どっどど どどうど どどうど どどう
宮沢賢治の世界では、風が吹くと不思議な物語が始まる。
ざざあ ざあざざざ・・・
旅の途中、こんな音が聞こえたら、
それは異質な旅人が、その国へと融和する合図だ。
ここはフィリピン・パナイ島の中心にある、とある小さな村の中。
この村に第二の家族を持つ私は、夏の数日間をこの緑で囲まれたのどかな場所で過ごしていた。
お昼ご飯を食べ、蚊に刺されながら家の中で寝っころがって目を閉じる。
ひんやりとした竹の床が気持ち良い。
近くに住む親戚の子どもたちがはしゃぎまわり、まとわりつき、これ以上ないくらいの透き通った笑い声をあげている。
家の人々はそれを微笑みながら見守っていて、外では闘鶏用のにわとりが鳴き、遠くにバイクが走り去る音が聞こえる。
なんだか涼しくなってきた、と思って目を開けると、心なしか光の量が減っている。いつの間にか子どもたちは小競り合いを始めていた。
突然、ざざあっと激しい音を竹の屋根が鳴らし始めた。
竹の窓枠から、細かくなった水のかけらがふわっと入ってくる。
木の葉、外に捨てられたジュースパック、バケツや金属の上で雨粒がはじけ、調子の良い音楽を奏で始める。
窓から空の様子を見る。子どもたちも、けんかをやめて、空を見る。空を見た後、目を合わせて、笑う。
その瞬間、いきなりこの場所だけ世界から切り取られたような錯覚にとらわれる。
雨に切り取られたこの世界には、一つの家族だけがある。
いつもはどうしたって異質な私も、
この時、この瞬間だけは、この小さな小さな世界の中で、一緒でいられる。
それが無性にうれしくて、私は後ろを振り向いて、みんなの顔を眺める。
そこにはやさしい世界が待っている。
日本の6月、
今も、あの場所にそんな雨が降っていたらいいのにと、くもり空を見上げて思う。
(文・関谷 昴)