外大生と巡る世界のことばシリーズ、古典語編第2段は、お待ちかねのラテン語編!

画像はWikipedia参照。ERRARE HUMANUM EST(エッラーレ フマヌム エスト)「人間は間違える存在である」

 

外大生と巡る世界のことば ラテン語編

 

1.0. はじめに

皆さん、こんにちは。いつの間にか4月になってしまいました。

外大に入学した新入生の皆さん、おめでとうございます。

『外大生と巡る世界のことば』シリーズ、おかげさまで続編を重ねることができています。気まぐれな筆者による不定期連載ですが、これからもどうぞよろしくお願いします。

 

さて、今回は皆さんお待ちかね(?)、ラテン語編です。

古典語の中でも特に学習者の多い言語であり、興味のある方もたくさんいるのではないかと思います。今までに連載してきたスペイン語、イタリア語やルーマニア語、連載中のフランス語などの母親となる言語ですから、これらの言語を学習する際にも、とても役に立つと思います。特に語彙の面でそれを感じることができるでしょう。逆に言えば、これらのロマンス諸語(ラテン語から派生した言語)をすでに学んでいる人にとっては、ラテン語は学びやすいと言えます。特にイタリア語はラテン語の特徴を多く受け継いでいるので、イタリア語専攻の皆さんは積極的に学んでみてはどうでしょうか。多くの大学で講義が開講されており、東京外国語大学でも文法と購読の講義が通年で開かれています。

 

さて、ラテン語は、古くはローマ帝国の公用語として用いられ、それぞれの派生言語に分化していった後も、学術語としての地位を堅固なものとしていました。ニュートンの『プリンキピア』やデカルトの『哲学原理』、トマスモアの『ユートピア』にガウスの『整数論』などなど…こうした誰もが知るような偉人たちの著作は実は原本はすべてラテン語で書かれています。もちろん、ローマ時代の、例えばカエサルの『ガリア戦記』やオヴィディウスの『変身物語』などに用いられているラテン語と同じですよ。逆に言えば、カエサルらの時代には、古代から現代まで継がれてきたラテン語の文法体系は完成していたということになります。これを「古典ラテン語」と呼び、通常我々が学ぶラテン語になります。こうしたラテン語の背景についてはもっと書きたいのですが割愛。

 

1.1. 文字と発音

ラテン語の文字は、皆さんおなじみの、そうまさしく「ローマ字」ですから、新たに覚えなければならない文字はありません。逆に、古典ラテン語にはもともとJ、U、Wの3文字はありませんでした。(JとUは中世に導入、この経緯は長いので省略します。これは、ローマ時代にはラテン語はすべて大文字で書かれていたのですが、中世になって小文字が筆記体として導入されたことによります。Wはラテン語にはありません。

次に発音ですが、これも基本はローマ字式です。つまり、1字1音で黙字はありません。(Hも読みますから、ロマンス語学習者は注意。Hを黙字としたのは派生言語に分化して後のことです。)しかし、気をつけねばならないのは後世のローマ字綴りとは少し異なる音価をもつ文字があるということ。つまり、以下のように。

 

ラテン語のアルファベット

ABC(アーベーケー)DEFGH(デーエーエフゲーハー)IJKLMN(イーイーカーエルエムエヌ)OPQR(オーペークーエル)STU(エステーウー)VXYZ(ウーイクスユーゼータ)

 

注意していただきたいのはCの音がシーではなくケー、つまりカ行の音になることと、IとJ、UとVの発音が同じだということです。(Jは母音のIを表すため、Uは母音のVを表すためですが、このことについては前述のように割愛。具体的な発音を見てみれば意味はわかると思います。)

それから、ラテン語の(単)母音はA、E、I、O、Uの5文字に加えてギリシア語由来のYが入ります。(他にae、au、oe、euなどの二重母音と子音がありますが細かいので省略。簡単ですしね。)

 

ラテン語の単母音には長母音と短母音の区別があります。つまりaと書いた時にその発音が短い「ア」なのか長い「アー」なのかで異なるということです。文法書などの解説では長母音の場合、その文字の上にマクロン記号(−)を付して学習者の便を図っているものも多いですが、ラテン語の原文ではもちろんそんなものは付いていませんから、単語ごとに覚えねばなりません。(実際上は発音の際にのみ問題となるのでそんなに気にしないでいいとは思いますが。)

ですから例えば、デカルトの有名な言説として、Cogito, ergo sum(我思う、故に我あり)というラテン語がありますが、この文中のoはすべて長母音です。したがって「コギト・エルゴ・スム」ではなく、正しくは「コーギトー・エルゴー・スム」と読まなければなりません。あと人口に膾炙しているラテン語としては、Thermae Romae(ローマの浴場)というのがありますが、この文中のoも長母音なので、「テルマエ・ロマエ」ではなくて「テルマエ・ローマエ」と読まなくてはならないわけです。

発音上の注意としてはこれだけです。難しくはないでしょう。

 

それから最後にアクセントの規則について述べておきます。各単語は音節に区切ることができますが、まずは下の内容を押さえてください。

 

① 1つの音節には必ず1つの母音が含まれる。

 

② 長母音または二重母音を含む音節を長音節、それ以外を短音節として区別する。

 

細かい音節の分け方についてはこれもまた長いので省略しますが、スペイン語などの音節の分け方と似ているところがあるので身構えなくても大丈夫だと思います。

それで、単語を音節に分けた時に以下の規則でアクセントが決まります。

 

① 1音節語を除いて、アクセントは単語の後ろから2番目または3番目にある。(2音節の単語なら当然後ろから2番目)

 

② 3音節以上の単語の場合、後ろから2番目の音節が長音節の場合そこに、短音節の場合もうひとつ後ろに下がって、後ろから3番目にアクセントがある。

 

これだけです。ここで言いたいのはラテン語の文字・発音・アクセントについてはさほど難しくもないということなのです。とっかかりとしては十分でしょう。以下で発音練習をしてみましょう。いずれも現代でも使っているラテン語です。まずは、母音の長短やアクセントはとりあえず気にしないで、アクセントについては自分の経験と勘で推測して抑揚をつけてみてください。それで大体当たっています。

 

ante meridiem(アンテ・メリディエム)午前のA.M.

post meridiem(ポスト・メリディエム)午後のP.M.

exempli gratia(エクセンプリ・グラティア)例のe.g.

confer(コンフェル)参考のcf.

post scriptum(ポスト・スクリプトゥム)追伸のP.S.

Anno Domini(アンノ・ドミニ)紀元のA.D.

 

 

普段目にするこれらの略号は実はラテン語なんですね。

本当にカタカナ読みでいいのです。この点で、実は欧米人よりも日本人の方がラテン語の発音は正確であると言えます。英語やフランス語の訛りがどうしても出てしまうようですからね。(実際にこのような乖離がヨーロッパで問題になったこともあります)

 

最後に、どのような事柄にも例外はつきもの。例外的な発音を覚えていただいて終わりにします。

 

Cicero(キケロー)ローマ時代の著名な雄弁家。Cは「ケー」という音価を持ちますから、カ行の発音です。Cf. ca(カ)cu(ク)co(コ)

 

Vergilius(ウェルギリウス)ローマ最大の詩人。このVの発音がもっとも間違えやすいです。前述の通り、UとVはラテン語では同じ音価を持ちますので、Vは濁音ではありません。ですから例えばOvidiusをオヴィディウスなんて読んではいけないわけです。正しくは(オウィディウス)。その他、Veronaは(ウェーローナ)、Venusは(ウェヌス)。

 

Horatius(ホラーティウス)詩人。これはロマンス諸語を学んでいる人向けの注意で、前述のようにHは発音します。(ただし例えばKarthago(カルターゴー)のような場合は気音化)その他、ad hoc(アドホック)。

 

他にも細かいことを言えばもう少しあるのですが、大方上に書いてあることを覚えてしまえばラテン語を発音することはできてしまいます。結構すごくないですか?旅行先などでラテン語碑文(すべて大文字で書かれています)を見つけたら読み上げて友達に自慢でもしてください。

 

また今回も文字と発音だけで終わってしまった…。

次はフランス語の続き書くかもしれません。見てくれる人がいるなら。

Vale!(さようなら)

 

(文:加瀬 拓人)