ロシアと聞いて、真っ先に思い浮かぶのはなんだろう。「寒い」「ウォッカ」「マトリョーシカ」…。実際の距離以上に遠く感じられ、なんとなく近寄りがたい印象を抱いている人も多いかもしれない。そんなロシアについて、同国からの帰国生である石川さんに話を聞いた。
石川さんが住んでいたのはロシアの西部にあるイフジェスクという街からほど近い小さな村「ザビアラバ」。モスクワからは列車で18時間ほど。住人はほとんど全員顔見知りの、小さな村だ。
【ロシアの気候】
ロシアは大多数のイメージ通り、寒い。真冬には5時には真っ暗になり、気温はマイナス30度を下回ることもある。それでも、7月には半袖で過ごせるようになり、人々は束の間の夏を楽しむ。「日本と違うのは、冬から夏への移行期間がほとんどないってことかな。”四季”ってかんじじゃない。あっという間に暖かくなって、あっという間に極寒になる」。ロシアの一年については、春夏秋冬というよりも「夏とそれ以外の寒い時期」という認識のほうが適しているらしい。
【ロシア人とウォッカ】
意外なことに、今のロシア人はそれほどウォッカを飲まないという。若い女性は特にその傾向が強く、欧米人や日本人と同じようにウイスキーやワインなど様々な種類のお酒を楽しむ。話を始めるきっかけになると思い、初対面のロシア人に「ロシアから来たんだね!やっぱりウォッカは好きなの?」と聞くのは、一度考えてみてからのほうが良さそうだ。相手によっては失礼になってしまうかもしれない。一方、年配の男性などはウォッカを好む人の割合が高く、「雪の中でウォッカの瓶を片手に倒れてるおじさんとか、よくいたよ」と笑って語ってくれた。
【ロシアの学校生活】
ロシアの高校は早いときは昼の12時、遅くても午後4時には終わってしまう。日が短い土地柄ゆえだろうか。片田舎の小さな村では星がよく見え、石川さんは友人と真っ暗な道を散歩して夜を過ごすことも多かった。
雪の多いロシアでは誰もが幼い頃から雪遊びに親しむ。体育の授業でおこなわれるスキーは「みんなびっくりするくらい上手い」。スキーのほかに、「地下室での筋トレ」なども体育の授業の一環だった。石川さんを驚かせたのは、同じく体育の授業に組み込まれていた「銃の解体」。AK47の模型を、「ヨーイドン!」で解体し、再び組み直す。一番早く解体と組み立てを完了させた人が優勝だ。日本の学校ではとてもできないことだが、これはロシアでは大会が開催されるほどメジャーなスポーツであるらしい。
【ロシア人】
雪遊びや銃の解体と同じように人々に親しまれているのは、SNSだ。ロシア人はインターネットが大好きで、「ВКонтакте(フコンタクチェ)」というロシア版Facebookのアカウントを大多数が所持している。もちろんFacebookのユーザーも多いが、ロシア人と仲良くなるのならこちらのほうが良いかもしれない。また、かれらは人とコミュニケーションをとることが好きだ。寝台車のコンパートメントなどで一緒になれば、知らない人同士でも世間話に花を咲かせるのは当然のこと。日本では赤の他人と口をきくことは少ないが、ロシア人はおしゃべりをしたり食べ物を分け合ったりと、とても気さくだ。「へたくそでもロシア語を一生懸命話せば、みんな色々助けてくれる」。「英語が通じなさそうだから」とロシア旅行をためらっているのは、もったいないことかもしれない。
【ロシアの知られざる観光名所、移動手段】
石川さんおすすめの観光スポットは、サンクトペテルブルクにある「夏の庭園」。ピョートル一世が建造し、黄金の噴水でも知られる場所だ。世界三大美術館に数えられる「エルミタージュ美術館」も外せない。モスクワなら、「赤の広場」と「ワシリイ大聖堂」がその美しさでよく知られている。
以上はガイドブックにも載っているメジャーな観光地だが、コアなおもしろスポットももちろんある。石川さんの住んでいた村の近く、イフジェスクの街には「戦争展示館」があり、第二次世界大戦で使われた武器などを間近で見ることができる。ロシアでは「戦争」に対する人々の捉え方が日本とはかなり異なっているようで、日本では戦争を扱った番組というと重い雰囲気のものが多いが、ロシアではごく普通に娯楽用テレビドラマなどとして放映されている(悪役は大抵ドイツ人なのだとか…)。石川さんが住んでいたザビアラバ村の5月のお祭り「День победы(ジェーニパベェードウィ)」は、戦争勝利の日を祝って催されるもの。軍服を着た人々が練り歩き、屋台なども出て大いに賑わう。
国内の移動については、飛行機と列車が主な足となる。バスもあるが、長距離の運行はしていない。モスクワ〜イフジェスク間(約1200km)の場合、飛行機だと約2時間、列車だと18時間程度。列車の場合は片道約5000〜6000円程度で行くことができる。予約などは必要なく、直接窓口に行って買えばよい。
【ロシアの食事情】
ロシア料理というと、たくさんの食材がじっくりと煮込まれた「ボルシチ」や中に具を詰めて揚げたパン「ピロシキ」などが思い浮かぶが、実際に石川さんがロシアで食べていた料理は日本のレストランで提供されるそれらの「ロシア料理」とはかなり異なったものだった。家庭で作られる「ボルシチ」は具のほとんどが野菜ばかりで、ピロシキは揚げたものよりも焼いたもののほうがメジャー。オーブン料理やスープ、川魚を使った料理が多い。そんななか、石川さん一押しのロシア料理は「ペリメニ」だ。水餃子のようなものを、「Сметана(スメターナ)」というサワークリームにつけて食べる。昨年の外語祭でロシア語科料理店が販売していたので、食べたことがある人もいるかもしれない。また、ロシア人は実はかなりの「マヨラー」!スーパーではバケツのような大きさのマヨネーズが売られており、人々はありとあらゆる料理にマヨネーズを加える。なんと、ボルシチにも入れるのだとか。ワインレッドが一般的な「ボルシチ」、ほんのりピンク色になっていたら、それは「マヨネーズ入り」のサインかもしれない。
以上、学生生活から食事情まで、”遠くて近い国”ロシアのさまざまな実情を語ってもらった。今年の長期休みの行き先がまだ決まっていないのなら、ロシアに出かけ、地元の人たちと一緒に楽しい夏を過ごしてみるのはいかがだろうか。ここには載せきれなかった、あなたにとっての「意外なロシア」に出会えるかもしれない。
▼ザビアラバ村の風景
(文・三橋 咲)