水は場所によって味が違う、と人は言う。北海道の水を飲んだら東京の水は不味くて飲めないんだとか。ずっと「東京水」は美味しいと信じて生きてきた私にはいささかショックな話だ。
まあ幸か不幸か、私には正直その違いがよくわからない。少なくとも北海道と東京の違いは。しかし国によって水の味が変わるというのは流石にわかる——水道水限定で。
例えば高校のとき1年間お世話になったアメリカ。初めて向こうの水道水を飲んだときはその薬品臭に驚いて、思わず「この水薬臭くない!?」とホストファミリーに聞いてしまったことを覚えている。今考えるとかなり失礼なことを聞いたものだ。結局は時間とともに慣れてしまったが。
また以前から紹介しているアイルランド。ヨーロッパで一般的に言われていることだが、水質は硬水で、ちょっと独特の味がする。日本にいても傷みがちな私の髪は、パサパサからパッサパサに変身する。湯沸しポットにはカルシウム分がこびりつくので時々こそぎ落とさなければいけない。しかし、味については気にしなければそのまま飲めるし、気になるときは冷やすか紅茶にしてしまえば大丈夫。これが私にとって王道の「水道水の味の誤魔化し方」。
オランダやスペインのバルセロナに行ったときも、私は大抵水道水か紅茶を淹れたものをボトルに詰めて携帯していた(この記事の見出し画像にあるのが、よく旅のお供に連れて行く水筒。こういうシンプルなデザインのを探しているのだけれど、なかなかいいのに巡り会えない)。
結論を言うと、水道水が飲めるのにペットボトルの水を買うというのが、私はどうも苦手なのだ。
しかしこうして旅行を重ねるに連れて、私はあることに気がついた。
私は水道水の飲めない地域に行ったことがない。
いや、一つだけ例外がある。タイのバンコクに行ったときは、タイ経験豊富な父のアドバイスに従い、水道水ではなく買ったペットボトルの水を飲んでいた。しかしタイでは水が500mlで約7バーツという信じられない安さで売られていたので、あまり困らなかったのだ(1バーツ≒3.5円 2020年6月7日現在)。それにタイの中でもバンコクのような開発の進んだ地域では水道設備自体は整っていたので、シャワーやトイレ(トイレは紙を流すと詰まってしまうので注意)も問題なく使えていた。
そのため行く先々で手軽に安全な水の恩恵を受けてきたわけだが、そもそも水道などのインフラが整っていない国や地域もあるという事実に、海外へ旅行するようになって少し考えを巡らせるようになった。まず現地の水道水が飲めるのかどうかを確認する。この作業なしには、安心して飲み水を確保することはできないからだ。
海外を旅することは発見の連続だが、私たちの生活に欠かせない「水」へのアクセスも、間接的ながらその一つかもしれない。
梅雨入り直前の6月、旅と水について考えてみた。
(文・小林かすみ)