わたしはあまり、海が好きではない。
7月の海を眺めると、涙がでるから。
何故だろう…?
わたしの故郷 長野 には、海はない。
海は、今はあまり会わなくなったあの人と出かけた数少ない場所だ。ごつごつとした岩場を歩き、ただただ海のさざめきを眺める、聴く。
「あっつい。」
「そうだね。」
その程度の会話で充分だ。
波の音が、わたしたちの会話に潜り込む。
わたしたちには、何にも言わせないくせに、何か見透かされているようで悔しくなる。
わたしは、日本から出たこともない。
海は、地球を包む。はじめて海へ来た日、地球の反対側まで泳いでいけるような気までした。海は、わたしより何倍も地球を知っている。また悔しくなる。
わたしは、海の前で、数年に一度涙を流す。あまり好きではないといいながらも、吸付けられるように海を訪れるのだ。今年は、その数年に一度の涙を流すことになりそうだ。
波と共に、あの人の涙も、地球の裏側の誰かの涙も流れてくる。