旅の始まりとは、いったい何時のことを言うのだろうか。
世界一周に向けて、
神奈川県、秦野中井インターからヒッチハイクを始めた瞬間。
成田空港から、次の目的地へと飛行機が飛び立った瞬間。
それとも・・・
昔から英語がやけに好きであった私は、何の迷いもなく、東京外国語大学の英語専攻を目指した。
無事に合格した私の世界は、英語圏に埋め尽くされていた。
行きたい場所といえば、カナダ、オーストラリア、アメリカ。
アフリカにも興味はあったけれど、それはずっと遠い世界のようで、
自分が何かをする場所ではないような気がしていた。
大学に入学したら、とりあえず英語を頑張って勉強して英語圏に留学しよう。と思っていた。
大学の授業が始まってしばらくたった頃
2限の授業を終えて、学食へと足を運んでいた最中、
入学当初に出会った友人が、大声で呼びかけてきた。
「ミンガラーバー」
ビルマ語を専攻していた彼は、
この習いたてのミャンマーの挨拶を、
言葉が使える喜びを会得したての子どものように、
さも楽しそうに私に投げかけてきた。
その瞬間
ミャンマーという国では、誰もが日常の中で交わすこの言葉を
「何も知らない」という事実に、私は心から嬉しくなってしまった。
27の言語を学ぶ友人が集まるこの大学には、
そんな「知らない」が溢れていた。
3年生の春
「最寄り」の駅から大学へ向かう一本道で
大好きな音楽を聴きながら、一つの決心をした。
英語圏への留学をあきらめ、
知らなかった世界を、自分の目で見て知るために
世界一周の旅に出ることに決めた。
「旅の始まり」は、日常のそこここに宿る。
ある晴れた日の昼下がりのキャンパスで。
聞きなれた音楽の、聞きなれた一節の中に。
ふと見上げた、都会の星の輝きに。
日常の中に当たり前のように潜んでいた
「未だ知らぬもの」に出会った瞬間、新たな旅が始まる。
あなたの「旅の始まり」は、
あなたの日常のどこに、その大きな身体を隠しているだろうか。